第21話
「クーリア!」
「――っ⁉ お、お姉さまっ……?」
クーリアを救出したルサルカが廃墟から出ると、騎士団を連れて外で待機していたエレンが駆け寄って抱きしめる。
「大丈夫ですか⁉ どこも怪我はしていませんか⁉」
「だ、大丈夫です……傷付けたら人質の価値がなくなるからって……」
「そう、ですか。あぁ……よかった……本当によかった」
まるで糸が切れた様に崩れ落ちかけるエレンに対して、クーリアは戸惑った様子を見せる。
これまで落ちこぼれとして家に見捨てられていた。
そう思っていた少女にとって、いつも毅然とした態度をとる姉がこのような姿を見せるのは、信じられない光景だった。
「あ、あの、私……その……」
自分は、オルレアン公爵家にとって必要のない存在だったのではないか?
母を失い、父には興味がない存在として扱われ、姉には……姉には……。
「ああ、そうだ……」
よくよく思い返せば、この姉は今までずっと自分のことを見てくれていた。
厳しい態度こそ取られることが多かったが、それでも一人の妹として、クーリアという存在として自分を見ていてくれていたではないか。
姉ばかりがみんなから愛されてる。
精霊使いとしての才能を持って、父には見てもらって、使用人たちも、みんなみんな姉ばかり。
そんな子ども特有の嫉妬に駆られて、自分を見てくれてる人を見落としていて……。
気付けば自分の傍にいてくれるのはアレスだけだと思い込んでいた。
だが実際、この姉はたしかに自分のことを見ていてくれたのだ。
「お姉様……私は……ごめ、ごめんなさい!」
自分は必要とされていないと思い込み、反抗的な態度を取った。
少しでも困らせてやれと、精霊使いではなく魔法使いの勉強をした。
貴族と冒険者ギルドの折り合いが悪いのは知っていて、わざと冒険者ギルドの人間に魔法を学ぼうとした。
その結果が今回の誘拐事件。
誘拐されている間に周りの冒険者たちから聞いた話は、とても怖いものだった。
きっと父も姉も、誰も助けてくれない。遠い異国に奴隷として売られてしまう。
そんな恐怖に一人で涙を流し、絶望していたのだ。
だけど、姉は助けに来てくれた……
「ごめんなさい! 私、みんなが私のことを嫌いなら、私も嫌ってやるって! そんな、そんな子どもみたいな思いだけで動いて!」
「いいんです……悪かったのは私たちなのですから。貴方が傷付いているのを、みんなで見て見ぬふりをしてきた……」
「ちが、違う! お姉様はいつも私を見てくれて……それでっ!」
廃墟の前、蒼銀の姉妹はお互い許しを請うように泣き続ける。
声を大にして泣くクーリア。静かに涙を流すエレン。
二人は対照的でありながら、やはり姉妹らしくその姿はそっくりだった。
お互いがお互いを必要とするように、絶対に離さないと二人は抱きしめあう。
その姿は、とても美しい。
「まあこれで一件落着、かな」
少し離れたところでその光景を見ていたルサルカは、良かった良かったと微笑む。
オルレアンにやってきてから感じていた姉妹のぎくしゃくとしていた空気も、これで無くなることだろう。
ただ一点気になるのが、これまでのエレンの態度。
以前の話や今の姿を見て、彼女がクーリアを愛しているのはよくわかる。
だがそれでありながらも突き放すような態度を取り続けていたのは……。
「ルサルカ、様」
「ん?」
気付けば、姉妹の絆に泣き崩れている騎士団から離れて老紳士が近づいてきていた。
その顔は真剣そのもので、なにか覚悟を決めた様子だ。
「お話がございます。エレンお嬢様のことについて……」
「いいよ。あとで屋敷に戻ったら聞いてあげる」
「ありがとうございます」
老執事は深々と丁寧に頭を下げると、再び騎士団の方へと戻って行く。
そうして指揮を執り、廃墟で気絶している冒険者たちを捕えに行くのであった。
「エレンについて、か……」
まあそれがどんなものであっても、自分のやることは変わらない。
美味しい物を食べて、美しい景色を見て、人々と出会い、その文化に触れる。
ただそれだけの、なによりも楽しい旅。
「それが、私がこの世界に転生した理由だからね」
姉妹の絆を取り戻す物語。
それを直接この目で見て、関わり合えることも旅の醍醐味だ。
「さてさて、それじゃあ次はどんな話が飛び出すのか」
この街でなにか問題が起きていることだけは間違いない。
だがしかし、そんな問題に関われること、それが少しだけ楽しみなルサルカであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます