カプリコルヌスの青の国編5
「では、戻る時間は貴方が試験を受ける前が良さそうですね。」
「それでは時渡しの詳細と対価についてお話しておきましょう。聞き終えた後で疑問にはお答えします。実際にするのかについてもその時に。」
対価、やはりか。こんな奇跡が何の対価もなしに行われるはずもない。それは彼が噂を聞いた時から考えていたことだった。いったい何を要求して来るのか、と彼が不安に思っていると彼女から答えが提示された。
「対価は、貴方が時渡しで渡る先の時間から現在までの記憶です。」
「そして時渡しというのは、人を好きな時間に飛ばすことです。ですので、過去だけでなく未来にも行くことは可能です。その際、記憶なども引き続き持ったまま飛ばされます。」
「ただ、未来から過去に飛ばす場合、情報量が多いものを情報量が少ないところに放り込むことになりますから少しまずいことになります。」
「数日分程度の差ならまだいいのですが、数年単位ですと悪くて廃人、良くても数日倒れることになります。」
「これを避けるためとそもそも飛ばすための薪のようなものとして、対価としていただく記憶が利用されます。」
途中で声をあげようとした彼を制止して、彼女は説明を続けた。説明を聞き終えた彼は、対価と内容については納得できた。ただ、記憶が無くなるのにそのやり直しが成功するのかという疑問は残った。その点についてはどうなのだろうか、と彼女に問いかけた。
「記憶はなくなりますが、想いは無くなりませんから。その強い後悔と彼女を想う心は貴方が選択する前に届いて、思いとどまるでしょう。それに私が貴方に彼女のそばにいるように言った記憶は残しておくので大丈夫ですよ。多分お告げを受けたような感じになると思います。」
それなら大丈夫なのか、と多少不安はあるが納得した。頼む、と彼は告げた。
「わかりました。では、始めさせてもらいます。この本で貴方の頭に触れるだけですが、意識が無くなっていくので抗わずにそのまま意識を手放してください。」
白い表紙の本を掲げて、彼女が言った。それに対して、わかった、と彼は返事をした。そこに続けて、名を教えてほしい、と言った。
「私のですか?構いませんよ。私の名は、クロを言います。」
そうか、では、クロ殿ありがとう、と彼は彼女に感謝を告げた。
「私は私の目的があってしていることですから、お礼は良かったのですが。まあ悪い気はしませんし受け取っておきますね。貴方も今度は良き人生を。二度とここには来ないように。」
それを願ってるよ、と彼は答えて目を閉じた。それを見て、彼女は本を彼の頭に触れさせた。
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