echo



「もういいかい」


 ぼくはいつも通り、無限の闇に向けて問い掛ける。


「もういいかい」


 いつも通り、返事はない。


「……」


 毎日毎日欠かさず続けているものの、こんなことに意味があるのだろうかとは時々思う。

 この広い広い星の海で他の誰かと出会おうなんて、やはり馬鹿げているのだろうか。


「もういいかい」


 それでも、問い掛けはやめなかった。

 他にすることもないし、出来ることもなかったから。

 この世界にはもう誰もいないんだ、と考えるのはとても恐ろしかったから。


「もういいかい」


 今日はこれで最後にしよう。すっかりお腹も空いてしまった。

 席を立ち、管制室を後にする。



〈もういいよ〉



 自動扉が閉まる寸前だった。

 慌てて席に戻り、記録を確かめる。

 数えるのもやめてしまうほど長い間待ち焦がれた返事が、確かにそこにあった。


 ぼくは端末上に記録された文字列をしばらくの間愛おしい気持ちで眺め、感嘆の息を吐いた。

 涙が後から後から出て止まらなかった。

 紛れもない。これは知的生命体の存在の証。そこが豊かで安全な星であるという証。



 ──食事の時を告げるメッセージ。



 凍てついていた陽電子エンジンに火が入り、両腕の触手で量子コンピュータを叩き起こす。

 信号の発信地点と現在地の距離を瞬時に計算し、この愚かで迂闊なメッセージが届くまでに何年かかったかを確かめた。

 くだらない戦争なんかで汚染さえされていなければ、ちょうど食べ頃だろう。


 ぼくは牙を剥いて獰猛な笑みを浮かべ、コールドスリープ中の同胞達に向けて歓喜の鐘を打ち鳴らす。

 

 起きろ、起きろ、家族達よ

 獲物が我らを呼んでいる


 我らは"星を喰らうもの"

 冷たい空の灯を奪い

 冷たい命を繋ぐのだ



 さあ、かくれんぼはもうお終い。

 鬼が今からそっちに行くよ。

 


 待っててね


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