第2話 8月15日15時00分 福丸湖春とショートケーキ
1週間の立て籠もり生活を共にした自室にお礼を告げた僕は、この1週間で身についてしまった陰鬱な気をお風呂で洗い流し、今回の立て籠もり生活は何も得られなかったなあと今回の出来事をしみじみと噛み締めながら着替える(ちょうど手の届くところにあったお気に入りのロゴ入りTシャツを被り、無地のチノパンを履く)。
幸い自室以外は空調は問題ない。詰まるところ、きっと僕の部屋も問題ない。特にひんやりとした風に誘われてリビングへ向かう。
「兄さん、おはようございます。今日もいい天気ですよ。」
リビングに向かった僕に大変にこやかに挨拶してきた僕の妹は、美味しそうなショートケーキを食べている。甘いものには目がなく、休日の3時のティータイムは欠かさない。それを見て、すでに時刻が午後3時を回ったのだと気づく。
「湖春、僕の分のショートケーキはあるかい。」
僕の妹、福丸 湖春(ふくまる こはる)は、口元を抑えながらくすくす笑う。
「残念ながら、ありません。」
なんと。さっき机の上のショートケーキが目に入った瞬間、僕はどうしてもショートケーキの口になってしまった。なんて言ったって1週間も篭りきりで、甘いものはおろか、まともな食事も口にしていなかったのだから許されてもいいと思う。こうなれば仕方ない。やるべきことは一つ。
「買ってくる。」
「もし買ってきていただけるのでしたら、駅前のトトリアンでモンブランとチーズケーキとフロマージュをお願いしたいのですが、ダメでしょうか。」
間髪入れずに来たお願いを、僕は玄関に向かおうとした背中で受け止めきれず、振り返る。
「一般的な高校生が平均していくら手持ちにあるのか知らないけれど、あいにくそんなには手持ちはないよ。」
トトリアンは駅前にある洋菓子屋で、種類が豊富で若い層に人気がある。値段は比較的リーズナブルだけど、自分の分も入れてケーキ4つともなるとまあまあなお値段だ。
「もちろん、お金は渡しますよ。」
「……わかったよ。行ってくる。」
1週間も太陽を浴びなかったおかげで、ちょうど少し光合成をしたい気分だった僕は、素直に湖春からお金を受け取って、出かけることにした。トトリアンまでは自転車で20分。高校一年生からすれば、大した距離ではない。
出かけ際に湖春が、今日はとっても暑いですから熱中症には気を付けてくださいねー、と言っていたが舐めてもらっては困る。さっさとタスクをこなして、帰ってくるとしよう。
そうしてじりじりと日差しが差す日の下へ、自転車で颯爽と駆け出すのだった。
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