異世界に訪れて理想の王子様を考える羽目になるとは…

@rg_minto

第1話 こんなことって、あんまりだわ…(前編)

 今日はいつもの並木道を歩いていたら有り得ないことが起こった。

何で自分はこんなところに居るのだろう…?


 制服を着た女子高生の少女は、雲一つ無い青空の下に雄大な高原の真っただ中に立たされていた。彼女は赤茶色い髪の髪色をしていて太陽に照らされ薄っすら桃色に変わっている。そこにもう一人存在する。黒髪に薄っすら紫がかった髪の少年だ。

 赤茶色い髪の少女と似たような色合いのある校風のズボンを着ており、草むらで横に倒れている。

 死んでいるのではなく、意識を失っているだけの状態。

 眠っている姿はとても綺麗でまつ毛が長く、上着は長袖のワイシャツしか着ておらず胸元がはだけていて、て少し見惚れてしまう。


二人はこの場所に似つかわしくない恰好で草原に佇んでいる。


少女は考えた。

「ここってどこだろ?確かあれは……」


と、目を閉じ、ふと記憶を遡ろうとする。


――そうあれは…


 学校から帰ろうとした道での出来事であった。

 赤茶色の髪の少女の名前は天音黄果(あまねおうか)。すらりとした足を覗かせ、ゆったりとした歩調で住宅街の中に広い道路がある並木道を歩く。

 ふわふわのマシュマロみたいなミディアムレアの髪をして、柔らかそうな頬をしている柔らかめの顔をして帰路を楽しそうにしていた。

 この時はまだ一人だったのだが、交差点の信号機を渡り切る間際に不注意で黒髪の少年とぶつかってしまい、交差点に押し戻されてしまった最中、運悪くトラックが勢いのあるスピードで横断されてしまい死を覚悟した瞬間、少年が飛び出して庇ってくれるような姿勢で突如眩しく光りだして……


 気が付いたらここに居たという流れになってしまったのである。


 事の成り行きを思い出した後、黄果は呟く。

「痛い思いはしていないし、あの時の光から気が付けばここに居たんだから、死んであの世に来たってわけでも無いようね」

 うんうん、と一人頷いていると隣から呻き声が聞こえた。

「…っう……く……」

 黒髪の少年が意識を取り戻したようだ。瞼を開き、髪の色と同じ瞳が見える。

 彼の名前は桐生柳都。

 少し頭痛でもするのか?しかめ面をして起き上がり座り込んだまま黄果に顔を向く。

「お前…生きて…」

 少々驚いたような顔をしてこちらを見てくる。

「二人とも無事で良かったね」

 黄果はにこっと笑いながら柳都の無事を安堵する。


 ぼそっと柳都は呟く。

「それにしてもここはどこだ…」


 柳都は立ち上がると辺りを見渡し、今の状況にたじろぐ。

「私もそう思ってるところ。事故にあって無事で良かったけど…」

 二人は少し重たい空気になる。

 こんな場所、二人が住んでいる環境の中では有り得ない光景だ。もしかしたら広い世界を歩けばこんな場所もあるかもしれない。

 でも日常生活において、ビルや住宅街や地面はアスファルトやコンクリ―トに覆いつくされて木々や草なんてほんの一部でしか無い場所からは別世界レベルの景色になる。


 少し風がひんやりしてきた頃…


 青空を隠すように雨雲が近づいてきてしまう。

 それに気づいた柳都が、やれやれ、とため息を吐きながら黄果に言う。

「本当はこんな何もわからない場所で闇雲に動くのは気が知れるが、そうも言ってられん。早く陰のある場所を探そう」

 柳都はそう言って黄果の左腕を引っ張り歩き出そうとした時、遠くからこちらへ近づいてくる人影が見えた。

「…!?」

 複数人居るようで戸惑う。

 しかし黄果の方は、こんな何も無い所に人を見かけたことに逆に喜ぶ。

「ねぇ!あそこに人が居るよ!ここがどこだかわからないし助けてもらえるかも♪」

 立ち止まる柳都の袖をもう一つの右手でツンツンと少年の裾を衣類から摘まんだ。それを冷静には答える。

「だと良いけど、明らかに場違いな所に来たと思わないか?悪いやつだったらどうするんだよ」

「警戒心強すぎ~。そんなの居るわけないじゃん」

 あははっと笑う黄果。


 そうこうしている内に人影は姿かたちを明確に表していく。


「なっ!?」

 柳都が姿を見ると、警戒心を強めた。黄果は顔が強張っている。

 相手はどうやら露骨すぎるくらいの悪党面でいかついおっさんだった。それだけではなく、見た目で判断するのは良くない平和な世界とは異なって、おっさんには斧らしき武器を持っていた。3人も居て、二人は斧、一人は剣。

「これってヤバイやつなんじゃないか…」

 柳都は迷い無くなんとか少女を守ろうと思考を駆け巡らせる。

 でもそんな時間も余裕もどこにも無い!!

 逃げるしかない状況の中、柳都は黄果を男共と反対側の方へ押しやった。

「イタッ…」

 少し痛みを感じたのか眉をひそめる黄果に柳都は小声でそっと呟く。

「考えている暇は無い。とにかくお前は足手まといだ。さっさと反対側を走って逃げろ」

「なっ!!」

 自分はどうするの!?と、柳都の心配をしたが言われるがまま足を動かせた。

 ある程度離れたところでそれに気づいた男共は相手に武器が無い事を察知してか、右からと左からと真ん中と3つの方向に分散して走り出した。

「そうはさせるか!」

 柳都は後ずさり、少しずつ黄果の走った方向に向かうように小走りで背後を気にしつつ、先に向かってきた右側の斧を持った男に立ち向かった。

 もちろん平和な世界で生きてきた自分がこんな男共に立ち向かえるわけがない。そんな風に思っていたはずなのに、何故か自信が沸き出し、いけるんじゃないかと斧を振りかざす前に相手の膝を蹴ってよろめいたところを突進して成功する。


 どすんっ


 当たりどころが悪かったので暫くこの男は動けないだろう。

「よしっ」

 気持ちが高ぶって次もやれると思った瞬間、2番目に少女に近づこうとしてきた剣  を持った男に遮られ逆上した姿でこちらに刃物が傾いた。

「危ない!!」

 黄果が泣きそうな顔で叫ぶ。


 死を覚悟した。


「……!」

 死を覚悟した時目を瞑ってしまったのか、一瞬が見えなかった。

 金属と金属が擦れ合う音を耳で感じ取り少年は目を開けると、そこには銀髪の女性が鎧を身に纏い男と応戦していた。


「助かったー…」

二人は同時に思う。


 しかし柳都はどうして助けてくれるのか疑問にも感じていた。

 だが、そんなことよりも見慣れない剣と剣が交じり合う光景と銀髪の女性の鎧を纏う姿の非現実さの方が勝り、その疑問は直ぐ拭い去った。


 戦いは呆気なく終わり、銀髪の鎧を纏う女性の勝利で終わる。剣を持っていた男は最後に一突きで事切れていた。その様を見ていた二人は思わず吐き出しそうになるが、足の遅い真ん中の男が逆上し、少女に向かって斧を投げつけていたのだった。


よろめく柳都は黄果の名を呼び

黄果は今にも届きそうな斧を恐れ悲鳴を上げ…


その時、突然空から蒼い髪の少年が降ってきて、振り回された斧を見事に足で蹴り飛ばばした。


ガキイィィン


斧はあらぬ方向へ飛んで行く。

呆然とする斧を投げた男。

銀髪の鎧を纏う女性はすかさず男の喉元に剣を突きつける。

「さあ、お前は人としてあらぬことをした。このまま殺しても良いけれど、お情けをかけてやろう。ここで死ぬか牢獄に行くか、どちらが良い?」

意地悪そうな顔をして問い詰める。

「ひぃ、ひぃ……ろう…ごく…」

「相分かった」

そう言うと、男は一瞬で消えた。

消えたのはその場から居なくなったという意味である。

銀髪の女性は何か左手に宝石の様な物を握り締めており、どうやらそれに何かを呟きコツンと男に充てた瞬間消えたようだった。


「いったい何が…」

柳都は何か言いたげにしたかったが、そんな事より黄果の安否を確認しようと向きを変えた瞬間、顔が引きつった。


黄果が見知らぬ蒼い髪の少年にキスをされていた。

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