第12話
外はすっかり暗くなり、時計の針は午後五時を回ったところだ。
ゆうたの車で、もう一度○○ビルに戻ってみることにしたゆめは、到着するや否や、すぐに飛び降り、ゆうたを車に残したまま、○○ビルの入り口に走り出した。
入り口に入ろうとしたと同時に、中からしろくまとくろくまが出てきた。仕事を終えて出てきたところのようだ。
「…(はぁ、はぁ、)…くまのくろさん、話があるんです…」
「…ん?私に?…何の用?…」
「…(大きく深呼吸をして)…昨日の交通事故の時のことですけど、…くろさんは直前まで二階に行っていませんでしたか?」
「…」
くろくまは無表情のまま黙っている。
「あっ、そういえば、くろがトイレに行くって言って、二階から帰ってきた後くらいに、あの事故の音が聞こえた気がする。」
しろくまは思い出したように答えた。
「さぁ、くろさん、答えてください。トイレに行くって言って二階に行った時に、何があったのかを…。」
ゆめとしろくまは、くろくまの顔をじっと見つめた。
そしてゆめが抱えていたくっぴーもじっとくろくまを見つめている。
くっぴーの視線を感じたくろくまは、少し考えるような表情をしてから、ゆっくりと口を開き話し始めた。
「…わざとじゃなかったの…ほんとは突き落とすつもりはなかったんだけど…勢い余ってぶつかってしまったの…」
ゆめは慎重に質問をしていく。
「…なぜ突き落とす形になってしまったんですか?」
「…あいつが…あいつがあの子の気を引こうとして、私のところに帰ってこなくなってしまったから…」
「…あいつって?」
「ボンちゃん。」
「…えぇっ、ボン?ちゃん?…なぜその呼び名を知っているんですか?…」
「…実は…」
話し始めた頃、ゆうたもようやくその場に駆け寄ってきた。
くろくまはゆっくりと説明をするように話しを続けた。
実は、ボン?はくろくまの、そしてガン?はしろくまの守護霊で、普段は、人間の姿に化けている存在だった。
普通、守護霊は一つの肉体が生まれてから滅びるまでの間はずっと同じ肉体を見守っていくのであるが、
ボン?はナルシストでかつ浮気性で、大好きな自分の姿を色んな人に愛されたい一心で、本来見守るべき肉体を次々と乗り移っている特殊な守護霊だったのだ。
そして、結局今回の事件の真相も、くろくまの守護霊であるボン?が、キラキラと光るものが好きなくるみの気を引こうとして、太陽光でテカった坊主頭と目がちらつくほどの銀色スーツで近づこうとしていることをくろくまは気づいていたのだ。そしてその事を良く思っていなかったくろくまは、昨日もボン?を眺めていたくるみに「あれに近づくのはやめた方が良いわよ」と声をかけるため、トイレに行くふりをして制服から私服の黒服に着替えた後、2階に行き、くるみに駆け寄っていった時に、勢い余ってくるみを押してしまい、その反動でくるみはバルコニーから下に落ちていってしまったという事だった。
そしてくろくまはそれに動揺して、トイレに駆け込み、しばらく隠れていたが、受付に戻るのがあまり遅くなると、しろくまに怪しまれるので、急いで階段を駆け抜けて行き、すぐにまた制服に着替えて何事もなかったように戻ったとのことだった。
「…社長、ごめんなさい。…私、自首してきます…」
くろくまはそう言うと同時に、一人で近くの交番へと向かい、今回の事を話しに行った。
〘ようやく真相が分かった。〙
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