第8話

階段を上ると、目の前に事務所、左手前に例のトイレ、そして左一面にバルコニーテラス付きのレストランがある。

事務所に入ると、昨日会ったガン?が事務作業をしていた。

「まりかちゃん、お疲れ様。」

「社長お疲れ様です。」

「…ガン?さん、昨日は突然すみませんでした…」

「あっ、あんたは昨日の。何であんたが社長と一緒にいるのよ…??」

「…ん?何だ、君たちは顔見知りなのかい?」

「いやっ、昨日この子がいきなりあたいのうちに来て…」

「実は昨夜ボン?さんに会って、今度はこちらの社長にお話しを聞かせてもらおうと思ってまたここに来たんです。」

「…あっ、そう…。(…ガン?…ボン?…??…)まぁ、いいや。ではゆめさん、社長室の中で話をしようか。」

「はい。」


社長室に入ると、中はほとんど物がなく、あるのはオフィス机、いす、ソファとローテーブルくらい。本棚とか飾りとかそんなものはほとんど見当たらない。

「ではそこのソファに座って話を聞こうか。どんなことを話せば良い?」

ゆめとゆうたはソファに向き合うように座った。

「昨日のお昼過ぎに妹さんのくるみさんが事故に遭った時、社長は何をしていましたか?」

「あぁ、くるみが事故に遭った頃はここで仕事をしていてね、実は外で事故があったなんて知らなくてねぇ、…三時過ぎ位だったかなぁ、警察からここに電話が来て初めて知ったんだよ…今思い返せば、確かに何かがぶつかるような凄い音がしたような気がしたけど、…ほら、ここのフロアにはレストランもあるし、上の三階にはボイラー室や機械室などもあるから、ここの部屋にいるとビルのあらゆる音が日常的に聞こえてきて、どんな音かまでは余り気にしていないんだよ…」

〘確かにここの部屋に入ると、レストランの食器の音やキッチンの色んな音、さらにはボイラーの音とか、水道管の水を調整する機械が動くような音とか、ビルのあらゆる音が聞こえてくる。…こんなところで良く仕事に集中できるなぁ…毎日のことなら、確かにいちいち気にしている訳にはいかないか…〙

「…その頃、ここの事務員のガン?さん、あっ、いや、いしわたまりかさんって、何をしていたか覚えていますか?」

「ん??いしわたまりかちゃん?…」

…ゆうたは少し考えてから…

「…確か、…お昼過ぎにトイレに行くって言ってから、三十分位戻ってこないことがあってね…やっと戻ってきた時に聞いてみたら、ここの二階のトイレがすごく混んでいて、向かいの□□ビルに借りに行ってきたって言っていたよ。あそこはまりかちゃんのお兄さんが社長をやっているからね。」

〘ゆうたさんが言っていることとガン?さんやボン?さんが言っていることはほとんど同じだ。どうやら、ガン?さんがトイレを借りに行って帰ってきたという話は嘘ではないようだ。〙

「ここの二階のトイレっていつも混んでいるのですか?」

「…あぁ、ここはレストランが入っているのに、トイレが一つしかなく、しかも男女兼用だから。特にお昼時にはいつも混んでしまうんだよ。」

「どの位混むんですか?」

「その時によって違うと思うけど、…長い時には三十分位待つこともあるかなぁ。…だから、大抵の人はここのトイレを使わずに、外のコンビニとか駅などのトイレに行ったりしているみたいだね。」

「そうですかぁ…」

〘ってことは三十分以上トイレが混んでいたのも、特別何かがあった訳でもなさそうだなぁ…〙

「他に、あの時、何か気になったこととかありませんでしたか?」

「…んー、…特に思い当たらないなぁ…」

「…分かりました。今日はありがとうございました。妹さんが大変な時に、突然こんな話を聞きに来てしまってすみませんでした。」

「いや、何かの役に立てば良いけど。」

ゆめはゆうたとガン?に挨拶をして、事務所を後にした。


〘…んー。…ガン?さんにはアリバイがある。くるみさんを突き落とした犯人は別にいるのかもしれない。…でも、その手掛かりがなくなってしまった。…この後どうしよう…〙

…ゆめは少し考えて…

〘そうだ…、事故の時に近くにいた可能性があって、まだ話を聞いていない人がいる。あの人なら、何か知っているかもしれない…〙

ゆめは思い立ったように、○○ビルを後にして、再び□□ビルへ向かった。

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