第6話

翌日、午後一時。この日も何の変わり映えのない平穏な街並みが存在している。


ゆめは約束通り、□□ビルにやってきた。○○ビルよりも高く、どこから見ても角ばっていて、その名の通り四角いビルである。

中は○○ビルよりも狭く、左側は壁のみ。右にエレベーター、右奥に階段がある以外は正面の受付しかない。


ゆめは入り口に入り、目の前にある受付を見ると、淡い桃色の制服を着た一人の女性がこちらを見ている。名札には『さくらみみ』と書いてある。

「すみません。一時に社長と会う約束をしているまもりゆめと言います。社長に会わせてもらえませんか?」

「お約束をされている方ですね。少々お待ち下さい。」

社長に連絡をしてもらっている間に周りを見渡してみた。社長の名前は『いしわたもりお』と書いてある。

〘昨日会ったガン?さんが言っていた名前と確かに同じだ。〙

「…お客様、大変お待たせいたしました。社長は十階の事務所でお待ちです。どうぞそちらのエレベーターより十階にお上がりください。」

ゆめはエレベーターで十階の事務所へ向かった。


十階、エレベーターの扉が開くと目の前にドアがある。どうやらここが事務所のようだ。

ゆめはさっそくドアをノックしてみる。

…トントントン…

「失礼します。」

「どうぞ。」

少し低く太い男性の声が中から聞こえた。

ゆめはドアを開けると、目の前にいる男性を見て、すぐにその人が社長の『いしわたもりお』であることに気づいた。何故なら、坊主頭で、銀色に輝く眩しいスーツの上からでもはっきりと分かる、がたいの大きいマッチョな体型をしているからである。

「いらっしゃい。君がゆめくんだね。オレがいしわたもりお、略してボンちゃんだ。」

〘…だから、全っ然、略してないって…〙

「ところで、オレに何の用だい?」

「実は、昨日のお昼過ぎに、そこで交通事故があって、その時のことを調べているんですが…」

「あぁ、その時もオレはここにいたけど、この十階まで聞こえる位の大きなぶつかる音がしたね。下を見ても事故現場はよく見えなかったけど。」

〘確かにここから窓の外を見ても、下の様子はあまり見えないなぁ。〙

「その時、妹さんがこちらに来たって本当ですか?」

「あぁ、来たよ。トイレ貸してくれって言って、凄い形相で駆け込んできたよ。ほら、そこのトイレ。この十階にはそこのトイレしかないから。」

「それって大体どの位の時間かかっていましたか?」

「んー、ここに着いてすぐにトイレに入ってから出て来るまで、大体十五分位だったかなぁ…」

〘ここでトイレを済ませるのに十五分位。しかも往復で五分ずつ位かかるから、全部で二十五分位。その間にボン?さんの目を盗んで、くるみさんに会う何てことは不可能。…やはりガン?さんは犯人ではない…〙

「その時、他に何か気になることとかありませんでしたか?」

「んー、下の様子もよく見えないし、他に気になることって言われてもよく分からないなぁ…」

「そうですかぁ。…分かりました。今日は突然すみませんでした。」

「いや、また何か役に立てることがあればいつでもおいで。」

「ありがとうございました。」

ゆめは事務所を出て再びエレベーターで一階まで降りた。


〘…あぁ、このあとどうしよう…そうだ。ガン?さんは○○ビルの事務員ってことは、そこの社長なら、ガン?さんがトイレに行っていたことを知っているかもしれない…〙

ゆめはもう一度○○ビルに行ってみることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る