第5話

夕方五時。夕日が赤く染まり、橙色の空が映えわたっている。昼間の事故が全く何もなかったかのように人々が行き交っている。


ゆめは約束通り○○ビルの入り口で待っていると、中からしろくまが出てきた。

「では行きましょう。」

しろくまから双子の姉であるくろくまとの話を聞きながら、歩くこと三十分。

しろくまの住むアパートに到着した。二階建てでまだ新しく、輝く黄金の壁で出来ているアパートだ。エントランスも綺麗で、セキュリティもしっかりしているみたいだ。

「うちは二階のこの部屋で、その隣が、例の女性の部屋だよ。」

「ありがとうございます。」

しろくまは会釈をして自分の部屋に入っていった。


表札には『くまのしろ』と書いてある。隣の部屋の表札には何も書いていない。

〘さて、早速、隣の部屋の呼び鈴を鳴らしてみるとするか。〙

…ピンポーン…

…何も反応がない…

〘もう一度押してみよう〙

…ピンポーン…ドンドンドン…

「すいませーん。御免下さーい。」

…それでも反応がない…

〘…留守かなぁ…〙

…ピンポーン、ピンポーン…

「すいませーん。御免下さーい。すいませーん。」

ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン…

ガチャッ。

「うるさいなぁー!…あんた誰??」

中から坊主頭にリボンを着けた、がたいの大きな女性が険しい顔をして叫んで出てきた。

〘…うっ、確かに大っきい…しかも坊主って…聞いてないんですけどぉ…〙

「…私はゆめと言います。…今日のお昼過ぎにあった交通事故の時の話を聞いて回っているんですけど、…今日のお昼過ぎ、○○ビルにいましたよね?…」

「んー、いたわよ。あたいはそこの事務員だからね。それで、何か関係あるの?」

「いえ、…その時に電話をしながら、慌てて出て行ったみたいですけど、何かありましたか?…」

「別に。何にもないわよ。ただ二階のトイレが混んでて、間に合いそうになかったから、道路の反対側の□□ビルの会社の社長をしているお兄ちゃんにトイレを貸してもらおうと電話してただけよ。…それに事故があったって言っていたけど、あたい、そのこと知らない。多分、トイレを借りている時に外から聞こえた凄い音がそれだったのかもしれないけど…」

「トイレを借りて帰ってくるまでに、何分くらいかかったのですか?」

「んー、道路の反対側だから、二十分以上はかかったんじゃない?」

〘あそこは近くに交差点がなく、遠くにある横断歩道を渡らないと反対側に行けないから、そこでトイレを済まして戻ってくるとしたら、確かに二十分以上はかかるかもしれない…ってことはこの人がトイレを借りたことが本当なら、くるみさんを突き落とすことは不可能…〙

「そのお兄さんに会うことってできますか?」

「んーっ?ちょっと待ってて。聞いてみるから。」

女性はテーブルにあったスマホで兄に電話をかけた。

…プルルルル、プルルルル、プッ…

「もしもし、ボンちゃん。今日はトイレ貸してくれてありがと。…あのさぁ、ボンちゃんに会いたいって言ってる子がうちに来てるんだけど、会ってあげることってできる?」

「…うん。分かった。じゃあ、そのように伝えておく。じゃあね。」

…ピッ…

「明日の午後一時に、□□ビルの十階に来てだって。一階の受付の人に話せば通してくれるってさ。」

「ありがとうございます。…ところで、お兄さんの名前って、ボンさんって言うんですか?」

「違うわよ。名前はいしわたもりお、略してボンちゃん。ちなみにあたいはいしわたまりか、略してガンちゃん。」

〘…えっ、全っ然、略してないし!…まっ、いいか。…今日は家で休んで、明日は□□ビルに行ってみよう〙

「じゃあ、用が済んだなら、早く帰って。」

「今日は急に来てしまってすみませんでした。」

…ゆめはガン?にお礼を伝え、家を後にした。

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