第10話 幼い女神は守りたい。

「ん~ん~ん~~♪」


 幼い女神が、少しどこか外れた鼻唄を奏でながら、椅子に腰掛け地面に届かない足をプラプラと揺らし、モニターに映された世界と動物たちをご機嫌に眺め、まだ慣れない手つきでポチポチと操作をしていた。


 本来なら環境課に配属されても、一柱で世界の管理を行うことは無いのだが、いかんせん神界は未曾有の神不足だ。少しでも成熟した神々の手助けになるよう、環境課の中でもわりかし簡単な動物、魔物などの管理を幼い神に振り分けていた。


 もちろん、適正にあわせてなのだが、動物、魔物の管理はほぼどの幼い神にも魅力的らしく、楽しみながら作業をこなしていた。


「ん~♪ ん? あれぇ? なんで、この子はこんなとこにいるのぉ???」


 画面に上がったエラーにより、世界を切り替え幼い女神は首を傾げる。

 画面にはまだ幼いであろう、ふかふかの白い毛並みをしたフェンリルが二頭映っていた。


「ん~! だめぇっ!!」


 つぎの瞬間には一頭が殺されていた。出来るだけ傷をつけないようにするためか、水魔法で窒息させたようだった。


「その子達はその世界に必要なのぉっ! 殺したら、め~っ!」


 画面に映る相手に伝わるわけもなく、もう一頭へと近づく男に、もたつく幼い女神の処理が更に輪を掛けて遅くなる。


「ダメなの~!!」


 呪文の詠唱だろうか、魔方陣が浮かびフェンリルに迫るのを見て、幼い女神はとにかく助けるために必死になった。




 結果、魔法が打ち消され、その森周辺から魔力が消失した。

「あれ? 魔力消えちゃった……あ、あの子は?」

 突如消えた魔力に驚きながらもフェンリルの子供を探す。


「いたぁ♪ よかったぁ、お母さんが迎えに来たんだね……間に合ってよかったぁ♪」

 嬉々として、鼻唄を唄い始める幼い女神を視界の端に捉えながら、複数の神が息をついた。


「「「「「まじ、間に合って良かった」」」」」


 その後、五柱の神々が始末書を提出したが書かれた内容に課長神は頭を抱えた。


『幼い女神に残酷な世界は見せたくない』

『我らの癒しの笑顔を妨げるものは許さない』

『反省はしている。だが、後悔はしていない』

『もふもふは正義。故に、正しい判断だった』

『鼻唄を聞きながら作業をすると、効率よく作業が出来るので、問題ない』


 課長神はチラリと幼い女神を見ると、今日も地につかない足を振りながら、鼻唄を唄っているのを見て思う。

『まぁ、いいか』と。

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