第7話 神は柔軟性を尊ぶ。
なぜ、私はこの職を選んでしまったのか? 幼かった私に今なら間違いなく『そこは辞めておけ』と止めるだろう。先に上から発された『神不足赤紙制度』により、定年も、退職も叶わなくなってしまった。
唯一の救いと言えば、まだ新しく生まれた神のように、職を自ら選べないわけでは無かったのは救いとも言える。自身を誤魔化すために、自分の選んだ道だから……そう、納得させることも出来るからだ。
いや、すまん。嘘だ。心でそう言い聞かせようとした時点で蕁麻疹が出てきた。
なぜ、私は転生課ではなく、環境課なんかに就職してしまったのだろうか? 来る日も来る日も、担当世界のモニタリングを一日中行い、交代してても緊急アラートで呼び出され、休みの日も念話の届かないようなとこへは遊びに行けない。
以前までは良かったのだ。四人で一つの世界を管理するだけで良かったのだ。それがここ最近は、二人で五つの世界を管理しなければならなくなったのだ。上に言わせれば、元々そんなに手が掛からないんだから、五つくらい二人でいけるよね? とウチの課長が情報課や総務課に押しきられたのが悪い。
元々、環境課にはコミュニケーションが苦手な神が多いのに、さらに輪を掛けて環境課は他者との触れ合いが無いのだ。会話も引き継ぎ時の一時だけ。しかも相手は決まっている。時々、課長と一言二言喋る程度で、あとはデスクの前でモニタリングとエラー処理の日々だ。つまり、言いくるめられやすいのだ。
そうそう、エラー処理で思い出したが、こないだは転生課の幼い女神が、なにかやらかしたらしく、自分の管理世界で熊人という、新たな人種が生まれて、バランス調整を三日徹夜して行ったのが記憶に新しい。
なにが辛いか、といえばその熊人は見た目が凄いモフモフな耳とまるっこい尻尾があり、とても可愛らしかったのに、モニタリングして観ているだけという生殺し感が辛いのだ。
転生課だったら、きっとモフモフな動物や可愛い人種とのコミュニケーションも取り放題だろうに…………あぁ、モフモフに埋もれてフニャフニャに溶けたい。
転生課はいいなぁ……こっちはモニタリングしながら、出生率の管理や、植物の成長速度の調整、大気成分の調整などなど、常に数字とにらめっこだ。しかも、すぐに人種がバランスを崩しに来る。
ここは賽の河原ですか? あなたたち人種は鬼ですか? バランス良く積み上げたモノを簡単に壊し、治せば治すだけ、歪なバランスになるというのに……あ、三種の動物が絶滅した。
もういっそ、大気の成分を窒素で埋めてしまおうか……
そんなことを考えていたら、モニタリングしていた画面にメッセージが現れる。
『本日午後より、添付のアドレスにある四つの世界を追加で担当してもらいます。課長』
「「「「「「「チッ!」」」」」」」
一括送信されたのであろう。この広いフロアのあちこちから同時に舌打ちが聞こえた。
意外とこの課は連携がいいチームなのかもしれない。いや、たぶん気のせいだな。
課内チャットで、何件の世界が回されたかで他人の不幸を笑ってるヤツが多い。
え? 私ですか? 課内最多の四つ追加で、合計すらトップの九つですよ……。
本当に数個世界を滅ぼしてもテヘペロで許してくれないかなぁ。
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