第8話 古参神は戻りたい。
いつからこうなったのだろうか? 目の下のクマが色濃く残り、眼がよく霞むようになってきた。モニタリングも、神による管理、つまりは管理局が設立された当初と比べ圧倒的に雑になった。
雑になった。とは言うものの、以前の方が仕事的には雑だったのだが、それはモニタリングの時間が減ったから仕方がない事ではある。
当初はモニタリング中に、他部署の神々と駄弁りながら、世界情勢を見ながら和気あいあいと調整を行っていたのだ。もちろん、規則もズブズブ、管理もそれなり、面白い事をしている人間がいたら応援の為の加護をつけたり。とにかく、世界のモニタリングは面白いものだった。
ほとんどの古参神は引退し、余暇をのんびり楽しんでいたのだが、つい先日に強制職場復帰として呼び戻されたのだ。そして、今に至るわけで。
復帰一日目で、正直同じ仕事とは思えなくなっていた。なにせ、担当管理世界の数が多いのだ。デュアルモニターで平行管理しながらの調整、規則の多数追加による禁止事項の増加。
とにかく、初日に始末書を十五枚書かなければならなかったのだ。で、現在に至るのだ、始末書を書いて出したら『書式が古い、やり直し』、書式を訂正して出すと『以前はやっていたことで、禁止事項になっているとは思わなかった? え? これ反省してませんよね? やり直し』で、今日に至る。
正直、知ったことか! と、投げつけ、さっさと帰りたい。帰って眠りたい。いや、もう浴びるほど酒を飲んで寝たい。
本当に、いつの頃からこんなに生きづらい世の中になったのだろうか……。
我のやったことなど他愛の無い事なのだ。土地を巡る争いが多く、多数の死者が出ている世界で、ちょっとした島を与えただけなのだ。なのに、なぜそれが禁止事項なのだ?
別の世界ではあまりにも森林伐採が進み、食料不足にまでなっていた為、すぐに育ち実る木々を荒れた土地に作ったり。
とにかく、良かれと思ってやったのだ。なのに、なぜ我が怒られるのかが理解できない。しかも、ご丁寧に理解できない我に対してタッグ相手の神は『例えば年齢の気になる女神の誕生日に、年齢の数ろうそくを刺して、火を灯したケーキを差し出し、おめでとうと、言うようなもの』とか、訳のわからん事例まで出してきおる始末だ。
年齢の気になる女神に、なぜ年齢の数のろうそくを刺したケーキが同じ物となるのか? そもそも、年齢の概念なんてもの、我ら神にあるものだったか? 本当にわからない世の中になってしまったものだ。
当初なら、『だよねー!』『そやなー!』とか適当にやっておけば良かったのだ。今はなんにしても短縮、効率化、『り』だけ返事の来た課内チャットなぞ理解不能だ。あの頃に戻りたい。
終わらない始末書を抱えながら、モニタリングを続ける古参神の背中はひどく煤けて見えた。
その後、彼が『り』を使い出すのはそう遠くない未来の事であった。
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