せっかく陰陽師になったのだから、何があろうと稼ぐことに決めた
恐怖、芦屋家の現実!
第25話 市川の壮大な計画
俺はお義母さんの指示で、三枝漢方という薬局にいる。
いつ潰れてもおかしくないような店に見えるが、実は現代の陰陽師専門の病院だったらしい。
その地下にある高度な医療施設で、ありとあらゆる検査をした。
店主の
その名医が、俺の検査結果を見て厳しい顔をしていた。
「この体で動いていること自体が奇跡ですな……」
レントゲンや心電図など全ての検査結果が、今すぐ死んでもおかしくないという判断に至ったらしい。
「はあ、そうですか」
他人事のように俺は呟く。
なぜなら、実際はもの凄く調子が良いのだ。
これは葉月さんのご先祖さまが俺に渡してくれた死神札のおかげだろう。
この札が俺の体を悪く見せている。
今は透明になってピタリと体に貼りついているが、この札のおかげで俺は余命一年という嘘をつき通すことが可能になった。
「本当に痛みも何も感じないんだね?」
「はい、葉月さんの術のおかげかもしれません」
それっぽいことをニコニコ顔で言うと、三枝先生は白いまつげをパタパタさせながら俺を興味深げに観察する。
「その瞳にある青い輪は間違いなく術者の証。ただの少年が術者として覚醒するとはのう……」
陰陽師として術を行使できる人間は、その証として、利き目に様々な色を持つ輪っかが現れるらしい。
葉月さんは燃えるような赤い輪で、俺は青だそうだ。
「今すぐにでもあなたの体をかっさばいて見てみたいもんです」
一人の医者として興味を抱いてくれたようだが、俺の後ろに立っていた葉月さんの般若のような顔を見て三枝先生は我に返った。
「と、とにかく、痛みが無いならそれで良し。お嬢様と残された時間を有意義に過ごして下さい」
その言葉に元気よく返事をしてから、俺と葉月さんは薬局を後にした。
「大吾さま、本当に大丈夫なのですね……?」
検査結果があまりにひどかったので、嘘だとわかっていても葉月さんは動揺してしまったようだ。
「問題ないです。むしろ痩せて身軽になったくらい」
わざとらしくピョンピョン跳ねてみた。
「なら良いのですが……」
葉月さんは腕を絡めてきた。
「本当に死んでしまっては元も子もありません。体は大事になさって下さい」
もちろんそのつもりだ。
ここ数日で葉月さんとの距離はどんどん近くなってきている。
この関係を手放してなるものかってんだ。
このまま二人でどこかに出かけたいものだが、最近の俺は売れっ子なのでそうもいかない。
実は市川さんと会う約束をしていた。
俺と葉月さんの嘘と決意を知る唯一の共犯者だ。
国道にある大きなファミレスは立地の良さから平日でも賑わっている。
市川さんは角の席で昼間からワインを飲んでいた。
「よし来たな、まあ座れ。何もおごらねえが」
「市川、要件だけ言いなさい」
人混みが苦手な葉月さんはあちこちを見回してはうろたえている。
「これからのことを話そうってことですよ」
市川さんは安物のワインを水を飲むような勢いで喉に流し込んでいる。
「検査の結果、狙い通りだったか?」
「はい。動けるだけでも奇跡だって」
いいねとワイングラスを俺に突き出す。
「まず第一段階はクリアだな。これでお前が嘘をついているとは誰も思わないはずだ。死神札のおかげで助かったぜ」
確かにご先祖さまはとても便利なものをくれた。
取り扱いには要注意だけど。
「では第二段階と行こう。保本大吾という男の価値を認めさせるんだ」
周囲に聞こえないよう、小声で話し始める。
「連中は今のところ、お前についてこう考えている。このままいけば一年も経たずに死んでくれるだろう。そしたら儀式だ。お嬢さんが力を得れば後は楽勝……って、これはあくまで連中の考えですからね! 俺じゃありませんよ!」
厳しく睨みつける葉月さんに気付いて慌てて手を振る市川さん。
「とにかく、このふざけた考えを変える。こいつを死なせると逆にやばい、不利になるんじゃないかと思わせるんだ。なろう系の小説で言うと、役に立たないから追放した主人公のスキルが実はもの凄いチートだったのに、気付いたときにはもう遅かった系だな」
「いや、気付いたときに遅いと困っちゃうんですけど」
食べられた後で、いないと困ると思い知らされてもどうにもならない。
「ものの例えで言ってるだけだから細かく考えるなよ。要するにお前にはチート能力があるってことを言いたいわけよ」
「これですよね」
チケットホルダーに入れて首にかけている死神札を上着から出す。
「そう、それよ」
アルコールの匂いを漂わせながら市川さんの
「その死神銃を使って暴れ回ってくれりゃ、秀吉もビックリするくらいのスピードで出世するだろうが……、問題はお前の体だ」
贅肉がなくなってスッキリした俺の顔を市川さんは複雑な顔で見つめる。
「データだけ見ればいつ死んでもおかしくない奴を戦わせるってことだからな。そんなことを昭恵さんが許可するわけが無い。そもそも労働基準法に引っかかるかもしれないしな……」
「確かに……」
黙って話を聞いていた葉月さんがジロッと市川さんを見る。
「あなた、何をするつもりかもう決めているんでしょう?」
「そりゃもちろん、事務方面から攻めていくんですよ」
事務。つまり机の上でする作業全般のことだ。
「お嬢さん、芦屋の家の財布事情はもう説明しました?」
「うっ……」
葉月さんの表情が変わった。
基本、四六時中俺をずっと見つめている人が、はっきり視線をそらす。
「何か、あったんですか……?」
きょとんとする俺を市川さんは満面の笑顔で見る。
「隣の人に直接聞いてみろよ」
その皮肉めいた言い方に葉月さんは溜息を吐いた。
「わかりました。芦屋の秘密をお話しします……」
「はい……」
秘密と言われて姿勢が勝手に良くなる俺。
「ですが、これは家族の皆様全員に話すべきこと。一度家に戻りましょう」
そして夕方の保本家。
妹の七菜が学校から帰ってきた後、葉月さんは家族全員を居間に集めた。
「貴重なお時間を割いてしまって申し訳ないのですが、いよいよこの話をしなければならない時が来ました……」
なんだなんだ、と皆が固唾を呑んで葉月さんを見る。
「実を言いますと、芦屋家は多額の借金を背負っております……」
予想通りといえば予想通りの流れだが、市川さん、まさか俺に芦屋家の借金をなんとかしろって言いたいわけじゃないよな。
自分の貯金すらままならないってのに……。まったく。
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