第17話
時間は少し戻る。
オッサンはサンダーバードにさらわれながらも、『
「どうだ、イナズマ野郎っ! 得意の素早さを殺された気分は!」
オッサンは別に返事は期待していなかった。
というか言葉など通じてないだろうと思っていたのだが、
「もう、失礼ねぇ。アタシは女よ?」
「えっ……お、お前、言葉がわかるのか?」
「トーゼンよぉ、聖獣と妖精は仲良しなんだから」
「仲良し? 食べるんじゃないのかよ?」
「え? 聖獣が妖精を食べる? なんでそんな残酷なことしなくちゃいけないのよ!
まあ、コロちゃんは食べちゃいたいくらいかわいいけど」
「俺はコロちゃんじゃなくてドノヴァンだ」
「じゃあドンちゃんね。アタシはランジャーゾン。ランって呼んでくれていいわよ」
「ラン、食べる目的じゃないんだったら、なんで俺を捕まえたりするんだ?」
「そりゃ、モフモフしたいからに決まってるじゃない。
それにドンちゃん、アナタは人間に捕まってるんでしょう?
前に見たときから、助けたくてたまらなかったのよぉ。
前はつい手放しちゃったけど、もう離さないわ。
さぁ、これから安全な巣に帰って、たっぷりイチャイチャしましょうねぇ~」
「いや、俺は下にいる子たちの仲間なんだ」
「え? 妖精がなんで人間の仲間なんかしてるの?」
「いろいろ事情があってな。だからお前といっしょに行くわけにはいかないんだ」
「んもう、いけずねぇ。それじゃああの子たちの元に帰してあげるから、モフモフさせてくれる?」
「そのくらいならお安い御用だ。あと、俺からも頼みがあるんだが……」
「なあに? ドンちゃんのお願いながら、なんでも聞いちゃう!」
「俺たちはお前の肝石と羽根が欲しくて来たんだ。肝石は無理だろうが、羽根を少し分けてもらえないか?」
「え? なんで肝石は無理だと思ったの?」
「え? だって肝石って肝臓にあるんだろう? 取り出すならお前の腹をかっさばかないと……」
サンダーバードはケッケッとえづいたあと、反芻した石をクチバシに咥える。
オッサンは仰天した。
「な……なんだよ!? 肝石って、自由に吐き出せるのかよ!?」
サンダーバードの肝石というのは、飲み込んだ石や砂などが肝臓の中で稲妻でコーティングされて、魔力をふんだんに含んだの結晶となったもの。
取り出すためにサンダーバードを討伐する必要があるので、歴戦の勇者でも入手が難しい超レアアイテムであった。
しかしオッサンは、交渉によりあっさりとその秘石を手に入れてしまった……!
オッサンはスカイたちの近くに降ろしてもらうと、その石を仲間たちに見せた。
静電気のようなものがパチパチと耐えず弾けている石を前に、仲間たちは魂を抜かれたようになっている。
「ま……まさか……そんな……!」
「サンダーバードと交渉して、石を手に入れちゃうだなんて……!」
「そんな入手方法、聞いたこともないんですけど……!」
「で、でも、聖獣さんも傷付けない、とってもやさしい方法です……!」
「拍子抜け」
「ああ、ちょっと拍子抜けしたけど、結果オーライだから別にいいだろう?
話したら羽根も好きなだけ持ってけってさ。
封印の水晶瓶をくれるか? 羽根をもらってくる」
「わ、わかった。なら、ボクたちもいっしょに……」
「いや、それは勘弁してくれって」
「え、なんで?」
「ラバーツリー臭くてかなわんって」
オッサンは自分の身体ほどもある大きな水晶瓶を抱えると、初めてのおつかいに出る子供のようにちょこちょことサンダーバードの元へと走っていく。
それは見ていて実に危なっかしかったが、やがて無傷の羽根がギッシリ詰まった水晶瓶を持ち帰る。
「これでよし、っと。じゃあ、ちょっとモフモフされてくる」
オッサンはスカイに水晶瓶を渡しておつかいを完了したあと、みたびサンダーバードの元へ。
巨大な鳥頭で身体じゅうをすりすりされて、声を震わせていた。
「お、おう、おおう……! なんか全身がパチパチするぅ……!」
聖獣と精霊がたわむれる光景。
それは見ようによってはほのぼのとしていたが、どこかシュールであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それから数時間後。
スカイたちがクエストを終え、街に戻ってきたという噂を聞きつけた教頭は、学園の全校生徒を呼び集めていた。
校門前の中庭に特設ステージをつくり、そこには『サンダーバード討伐クエスト結果発表会』と看板を掲げる。
そう。教頭は全校生徒の前で、スカイたちにクエスト失敗の報告をさせ、笑い者にしようとしていたのだ。
しかも今日は『冒険者試練連合』の新会長が就任して初めて、挨拶もかねての視察にやってくる予定となっている。
特設ステージの看板は、ひっくり返すとこんな文字が出るようになっていた。
『緊急徹底追求! 新会長がスカイに与えたSSSの才覚は、果たして正当であったのか!?』
そう。スカイのクエスト失敗にあわせ、その才覚を判定した人物の任命責任にまで事を大きくするつもりでいたのだ
この一計によりスカイたちは落第、新会長は責任を取って辞任。
この世から女勇者の芽は摘み取られ、学園の教員たちと『試練連』は再びズブズブに。
ついには二度と女が勇者になることのない、盤石な体制が新たに築かれるのだ……!
その立役者である校長は『冒険者教練連合』から功績を認められて、連合の幹部入りを果たす。
そして教頭は校長に昇進するというところまで話ができあがっていた。
司会進行役として教頭はステージにあがり、校長はステージに併設された来賓席でそれを見守る。
そしてついに、スカイたちが校門をくぐった。
「イェス! 本日の主役がやってまいりましたよっ! みなさん拍手、はくしゅーっ!!」
即席のアーチと花吹雪で迎えられ、スカイたちは目をぱちくりさせる。
「ど、どうしたの、これ……?」
「スカイさんのクエストの報告会ですよ! さぁさぁ、ステージにあがってください!」
ステージの教頭に手招きされ、スカイたちは戸惑いながらもアーチをくぐり、登壇する。
「どうしたんですか、教頭先生? 報告会があるにしても、いつもボクたちにはしてくれなかったのに……」
「イェス! このイェスマンはウッカリして忘れていたのですよ!
だから今までの分もあわせて、こうして盛大にやろうというわけです!
なんたってスカイさんは世界で初めて、女性の勇者になるかもしれない生徒なのですから!
当然のように、今回もサンダーバードの羽根を無事手に入れたんですよね!?
スカイさんのことですから、羽尾を1本だけじゃなくて、2本……いやいや、5本くらいは手に入れたんですよねぇ!?
勇者だったらそれくらい普通ですよねっ!? ねっ!? ねっ!? ねぇーーーーーーっ!?!?」
教頭はハードルを上げに上げまくる。
スカイは困惑のあまり、腕に抱いていたオッサンを見た。
「普通は5本だって。どうしよう、ドンちゃん……」
「気にすることはないさ。ありのままを報告してやれ」
すかさず教頭が割り込んでくる。
「えっえっえっ!? それはどういうことですかぁ!?
まさか1本も手に入れてないってことはないですよねぇーっ!?
たったの1本も手に入れてないとなると、それは大問題ですよぉ!?
なんたってSSSの才覚がある天才少女たちで構成された最強パーティなんですから!
そうもったいぶらなくてもいいじゃないですかぁーっ!?
何本手に入ったのか、みんなの前で大々的に発表してくださいよぉーっ!?」
「は、はぁ、わかりました……。ぜんぶで、100本です……」
「えっ」
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