第12話
オッサンは丸テーブルの中央に立つと、少女たちを見回しながら声を荒げた。
「まだわからないのか!? お前たちは、失敗が前提のクエストを押しつけられてるんだよ!
それはお前たちの能力に期待してのことじゃない! お前たちの足を引っ張るためだ!
手助けするフリしてよこしたポーションに、混ぜ物をしてあるのが何よりもの証拠だろう!
しかしだからといってクエストを拒否したら、それこそ相手の思うツボだ!
相手はきっとお前たちのことをやる気のない生徒だって騒ぎたてて、落第させる理由にするだろうな!」
すると少女たちのリーダーであるスカイが、「えっ」と声をあげる。
「ボクたちを落第させたいだなんて、いったい誰がそんなことを……?」
「それはまだわからんが、ソイツを炙り出すためにも、受けて立ってやろうじゃないか!
サンダーバードをブッ殺して、肝石を手に入れてやるんだ!
ヤツらはそんなこと、きっとできっこないと思ってる!
だから2階級昇進なんてナメたエサをぶらさげてるんだ!
取れるもんなら取ってみろ、ってな!
だが俺は、ブルベアを一撃でブッ倒したときに確信した!
お前たちならできる、ってな!
SSSの才覚を持っているお前たちと、この俺の
やってやろうじゃねぇか!」
オッサンはすっかり熱弁を振るっていたが、自分がなぜこんなにも熱くなっているのか、自分でも不思議だった。
でもどうしても我慢ならなかった。
こんなにもまっすぐに伸びようとしている若い芽を、食い荒らそうとしている害虫の存在に。
その害虫を吹っ飛ばすためには、より強く育つしかないと、オッサンは思っていた。
「おまたせしました~」
ウエイトレスが注文した飲み物をトレイに乗せてやって来た。
目の前に置かれたコーヒーをオッサンはさっそくコーヒーをひと口すする。
途端、悶絶した。
「あっ……あんまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!?!?
なんだこりゃ!? メチャクチャ甘ぇ!?」
ウエイトレスは意外そうな顔をする。
「あら、ウチでコーヒーといえば、『はちみつミルクコーヒー』のことよ?」
「そーそー、コレ、うまいんだよね~!」とキャルル。
「コーヒーっていえば普通はブラックだろ!」
すると、別のウエイトレスがぱたぱたやって来て、
「ごめんねボク、それじゃあお口直しにこれをあげる」
と、練乳がたっぷりかかったフルーツパフェを目の前にドンと置いた。
「いいなぁドンちゃん」とスカイ。
「いや、もっと甘そうなのが出てきちゃったよ!?」
「ほらほらボク、機嫌なおして? これをあげるから、ねっ?」
店員たちが次々とやって来て、オッサンの前に次々と甘いものを並べていく。
「せめてしょっぱいのくれよ! 塩せんべいとか!」
しかしその願いは聞き届けられず、ウエイトレスたちはドサクサにまぎれ、みなでオッサンをなでまわしていた。
オッサンはもうあきらめて、「うにゃんうにゃん」と変顔になりながら、仲間の少女たちに尋ねる。
「で、どうするんだ? サンダーバードをやるのか? やらないのか?」
「「「「「「「「「「「「「「「やるーっ!」」」」」」」」」」」」」」」
スカイたちだけでなく、なぜかウエイトレスたちまで一緒になって返事をしていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
次のクエストは、『サンダーバードの肝石の入手』に決定。
サンダーバードの肝石というのはサンダーバードの肝臓で作られる石のことで、秘石とされている。
取り出すには解体が必要となるので、事実上討伐と同じと言っていい。
サンダーバードはベテランの冒険者でも勝つのが難しい聖獣である。
しかし勇者ならば、避けては通れないモンスターのひとつ。
それをまだ未熟な女子高生たちで挑もうというのだ。
オッサンは最初の準備として、少女たちの能力の再確認を行なった。
自己紹介のときに聞いたメイン
すると、以下のようになった。
スカイ メイン:勇者 サブ:吟遊詩人
ガーベラ メイン:騎士 サブ:拳闘士
キャルル メイン:賢者 サブ:遊び人
セフォン メイン:聖女 サブ:
バンビ メイン:忍者 サブ:
サイドジョブというのはメインジョブに補佐として習得する技能のこと。
オッサンはひとつひとつ突っ込んでいく。
「スカイのサブは吟遊詩人なのか。勇者のサブにしちゃ珍しいな」
「へへー、ボク、歌うの好きなんだよね! 歌ってみせようか?」
「いや、今はいい。ガーベラは拳闘士か。こっちも珍しいな」
「ふん、我が家系は剣よりも拳で戦う騎士一族なのだ。拳を捧げる以上の忠誠はない」
「そうか。じゃあ次、セフォンは……」
「ちょっと! なんでウチ飛ばすし!?」
「キャルルは遊び人なんだろ? なんとなく察しはついてたよ」
「ぶーっ! なんかムカつくんですけどぉ!」
「セフォンは
「はい、ありがとうございます」
「最後はバンビ、
で、お前のペットは何なんだ?」
「今はいない。絶賛
「へー、どんな動物なんだ? 犬か? 猫か?」
するとバンビは、無言でオッサンを指さす。
「って、俺を
しゅばっと身構えるオッサンに向かって、バンビはさした指をクルクル回す。
「って、俺はトンボかっ!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
カフェ『生まれたての赤竜亭』を出たスカイ一行は、街中を歩いていた。
「ドンちゃん、これからどこへ行くの?」
「装備を揃えに行くんだよ。お前たちの装備じゃ、とうていサンダーバードには勝てないからな」
オッサンは少女たちのサイドジョブを確認したあと、身に付けている武器や防具も調べた。
しかしオッサンが見てきた高校生勇者パーティのなかでは、ありえないほど貧弱な装備だった。
勇者パーティというのは誰もがボンボンで、親から買ってもらった最上級の装備を身に付けている。
しかし彼女たちの装備はアルバイトをして、自分で買ったものだという。
オッサンは少女たちの家柄は知らなかったが、いずれにしても武器だけでも買い換えねば勝負にならないと思っていた。
「でもドンちゃん、ボクたちあんまりお金持ってないよ?」
「そこは俺に任せとけ、なんとかしてやるよ」
オッサンが向かった先は、武器屋や防具屋が並ぶ大通りから、裏路地を奥へ奥へと入った場所。
そこは貧困と犯罪の臭いが漂う、スラム街であった。
その入口にある鍛冶屋の看板を目にするなり、少女たちは慌てて止めた。
「ドンちゃん、まさかあの鍛冶屋さんに行くの!?」
「ちょ、ヤバいって! あの鍛冶屋のオヤジ、マジ怖いんだから!
特にウチらみたいな女の子には、特に厳しくって……!」
「はい、わたしも一度道に迷ってここに来たことがあるのですが、前を通っただけで怒られてしまって、とっても怖かったです」
鍛冶屋のオヤジは筋骨隆々としたヒゲもじゃで、いかにもガンコ職人といった風体であった。
軒先で焼けた鉄を金槌で打っていたのだが、スカイたちに気付くと、
「おい、ゴラァ! ここはお前たちみたいな女子供が来る場所じゃねぇ!
とっとと回れ右して失せねぇと、この剣みたく平べったくのしちまうぞ!」
ヒゲオヤジは猛然と立ち上がると、金槌片手に追ってくる。
しかしキャルルの腕にいたオッサンを見るなり、
「かっ……かわいいっ……!」
思わずポッと頬を染め、振り上げた金槌もぽろりと落としてしまっていた。
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