第11話
次の日の朝、オッサンは布団をめくり上げられてぽよよんと飛び起きる。
「ほらドンちゃん、もう朝だよ! 起きて起きて!
落第も無くなったし、今日も一日がんばるぞぉーっ! えい、えい、おーっ!」
スカイは憑きものが落ちたみたいに元気になっていた。
さっそくオッサンを抱っこすると、手を操って拳を振り上げさせる。
「ほらドンちゃんもいっしょに! えい、えい、おーっ!」
「え……えい、えい、おー……」
寝ぼけ眼で付き合うオッサン。
スカイはそのあとパジャマを脱ぐと、いつもの勇者ルックに着替え始めた。
オッサンは窓際に座って背中を向けていると、ふと、隣にある大きなクマのぬいぐるみに気付いた。
そのクマはオーバーオールを着ていたので、指さして尋ねる。
「なあスカイ、この服もらってもいいか?」
「ぬいぐるみの服? いいけどなにに使うの?」
「着るんだよ」
「あはは、ドンちゃんも服着たいんだ」
「ぬいぐるみが着てるんだから、俺が着たっていいだろ」
オッサンはクマの服を脱がすと、ベッドの上に移って着替え始める。
しかし手足が短いのでうまくいかず、何度もコロリンと転んでいた。
「うふふ、ボクが着せてあげる」とスカイに手伝ってもらってようやくオーバーオールを身に着けることができた。
そのオーバーオールはぬいぐるみ用ながらも、ポケットがいっぱいあって使い勝手も良さそう。
スカイがさっそく飴玉をくれたので、胸の大きなポケットにしまった。
「よーし、それじゃあいってきまーす!」
スカイといっしょに元気に部屋を飛び出すオッサン。
食堂に向かうと、そこには仲間たちがすでに揃っていた。
今日の当番はキャルルということで、スカイはオッサンをギャルにバトンタッチ。
キャルルはセフォンと同じで胸が大きく、ミントのような爽やかな香りがした。
朝食を終えた一同は、連れ立って食堂を出る。
オッサンは授業のために校舎のほうに向かうのかと思ったら、少女たちは学園の敷地の外にある一軒のカフェに入った。
カフェ『生まれたての赤竜亭』。
店に入ると、『ユグドラ総合冒険者学園 レインブラント校』の生徒たちの姿が多く見られた。
スカイたちにはいつも店の奥にある5人掛けの丸テーブルに座っていて、指定席のようになっている。
着席したのち、ウエイトレスを呼んで飲み物を注文した。
スカイはオレンジジュース、ガーベラはホットココア、キャルルはコーラ、セフォンはホットミルク、バンビはお茶。
そしてオッサンはビールを注文したのだが、置いてないそうなのでコーヒーを注文。
「それにしても、朝っぱらからカフェなんて入ってなにするんだ? 授業には出なくていいのか?」
オッサンが尋ねると、スカイが教えてくれた。
「うちの学園はクエストと試験さえこなしてれば出席は自由なんだよ。
それに今朝、学校から新しいクエストをもらったから作戦会議をしようと思って」
「なに? 冒険者が作戦会議するなら普通は酒場だろう」
すると、スカイの隣にいたキャルルが吹き出した。
「ぶっ! 酒場って! それってオッサンみたいじゃん! あっはっはっはっはっ!」
「俺はオッサンだよ!
それにお前たちは昨日、クエストから帰ったばかりじゃないか。
それなのにすぐ次のクエストをやらなきゃならんのか?」
「うん、二連続でクエストを指示されるのって珍しいんだよ。
普通、学校指示のクエストって1回やったら1週間は間が空くのに」
「それだけ我らが期待されているということだろう」
「そうですね、がんばりましょう」
仲間たちは前向きだったが、オッサンはさっそくキナ臭いものを感じ取っていた。
学園からのクエスト指示というのは、パーティのリーダーの部屋に封書として、支給品がある場合は小包として届けられる。
クエスト内容は教師たちが対象生徒たちの現在の実力を見極め、さらなる成長を促進するものとされている。
そのクエストの成否と、定期的に行なわれる筆記試験によって成績が決定される。
クエストは拒否することもできるが、その場合はやる気がないとみなされてそれ相応の成績となってしまう。
落第を踏みとどまったばかりのスカイたちには、拒否権はないも同然だった。
さっそくテーブルの真ん中で、届いた小包を開けてみる。
中には5つの小瓶と、1枚の羊皮紙。
羊皮紙はクエストシートであるが、要約するとこんなことが書かれていた。
『サンダーバードの羽根』を入手せよ。
成功時には1階級の昇進とする。
また困難なクエストであるため、特別に能力が大きく上昇するポーションを支給する。
さらに『サンダーバードの肝石』を入手した場合、2階級の昇進を認める。
少女たちは、「さ、サンダーバードの羽根ぇ!?」と思わず声をあげてしまう。
「サンダーバードって聖獣だよね!? その羽根を手に入れるなんて、すっごく難しいんじゃない!?」
「でも、いまユピテルっていう同じ学園の勇者が挑戦してるって書いてあるし!」
「ユピテルはSランクの勇者であろう? ならばSSSランクの我々ができぬはずがない!」
「成功すれば1階級の昇進だそうですから、がんばりましょう!」
「でも、死ににいくようなもの」
ワイワイと騒ぐ少女たちをよそに、オッサンは同封されていたポーションの匂いを嗅いでいた。
「どうしたの、ドンちゃん?」
「これ、ラベルには能力倍加ポーションとあるが……ラバーツリーの葉が含まれているようだな」
「えっ、どうしてわかるの?」
「ラバーツリーの匂いがするんだ」
「へぇ、ドンってば鼻がいいんだ! まるで犬みたいじゃん!」
「ああ、なんか嗅覚が鋭くなったような気がする」
オッサン自身もわずかな匂いを嗅ぎ分けられたことに驚いていた。
「毛玉よ、ラバーツリーの葉が入っていたからといって何だというのだ?」
「ラバーツリーの葉は服用すると、その匂いが体臭となって現れる。
そしてサンダーバードはその匂いが大嫌いなんだ」
「え……それってどういうこと?」
「コイツをよこしたヤツは、どうしてもクエストを失敗させたいんだろうな。
サンダーバードの羽根を手に入れるのであれば、サンダーバードが現れたときにこっそり拾えばいい。
だがこのポーションを飲んでいたら最後、近づいた瞬間に襲われるだろうな。
それも体臭はなかなか消えないから、死ぬまで追われるハメになる」
「ええっ……!? それじゃあこのクエストは、受けないほうがいいってこと!?」
「いや。クエストを指示してくるのが学校側である以上、ここで拒否しても同じことの繰り返しだろうな」
「では、どうすればよいのだ!?」
「簡単なことさ」
仲間たちはごくりと固唾を飲んで、オッサンを見つめる。
テーブルの上でぬいぐるみのようにちょこんと座っているオッサンは、その見目の愛らしさとは裏腹の、とんでもない言葉を口にする。
「サンダーバードを、ブッ殺してやるのさ……!」
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