第9話
スカイはオッサンの頭に顔を埋めたまま、やがて眠ってしまった。
数日ぶりに少女に訪れた、安らかな夜。
寝ぼけたスカイにきつく抱きしめられても、オッサンはされるがままになっている。
オッサンは本当は、スカイが寝たあとに女子寮を抜け出すつもりでいた。
しかし、その考えは捨てていた。
なぜならば、スカイはいつも明るく振る舞っているが、その裏には少女には相応しくないほどの使命感、そしてプレッシャーを抱いていることを知ったから。
さらに、彼女が勇者を目指しているのを良く思っていない者たちがいて、嫌がらせを受けているのは明白。
オッサンは彼女に出会って早々にそのことに気付いていたが、まだ純粋無垢な彼女は気付いておらず、理不尽な扱いをされても気丈に受け止めている。
だからなおのこと、オッサンはスカイの元を離れるわけにはいなかった。
オッサンは安らかな寝息を聞きながら、ある決意を固める。
――この子を、必ず勇者にしてみせる……!
と……!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
オッサンが、スカイのパーティに入ることを誓ったその夜。
女子寮から少し離れた場所にある学園の校舎では、真夜中にもかかわらず明かりがついている部屋があった。
校舎の最上階にある、校長室である。
部屋の中には、革張りの椅子にふんぞり返る肥え太ったオヤジと、揉み手をする痩せたオヤジがいた。
太ったオヤジは「くそっ!」と豚の蹄のような手を書斎机に叩きつける。
「まさかあのメスガキ勇者が、ブルベアのツノを持ち帰るとは!
ブルベアはワシでも勝てなかったモンスターである!
それをあんなメスガキどもが倒せるわけがないのである!」
痩せたオヤジがヘコヘコと頭を下げた。
「イェス! デアル校長様のおっしゃる通りでございます!
きっとあのメスガキどもはインチキをしてツノを手に入れたに違いありません!」
「まったく、これでようやくあのメスガキどもを降格させられると思ったのに!
女というのはこれだから始末に負えないのである!
しかも、それだけではないのだ!
ワシは『冒険者試練連合』の会長に新しく就任したメスガキにも煮え湯を飲まされていて、さんざんなのである!」
「イェス! おっしゃる通りです!
『試練連』にあの新会長が就いてからというもの、我々『冒険者教練連合』は何かとやりにくくなりましたよねぇ。
名家の勇者は低ランクに判定するわ、かと思えばどこの馬の骨ともわからないメスガキに、SSSランクを与えるわ……」
「あの会長は乳のデカさだけで成り上がったのだから、頭がカラッポに違いないのである!
早々に失態をあげつらって、辞任させるべきなのである!」
「イェス! おっしゃる通りです!
そこで、メスガキ勇者とメスガキ会長をぎゃふんといわせる手を考えてみたのですが……」
「ほう、イェスマン教頭、なにかいいアイデアがあるのであるか?」
「いま、ユピテル君たちがサンダーバードの羽根を手に入れるクエストを遂行しているのはご存じですか?」
「おお、ユピテル君か! 彼の父親には多額の寄付を頂いているのである!
ということはユピテル君もいい勇者なのである!」
「イェス、おっしゃる通りです! それと同じクエストを、あのメスガキどもにもやらせるというのはどうでしょう?
ユピテル君はクエストに成功、メスガキどもはクエストに失敗すれば、降格の理由にできます!
そのうえ、Sランクの才覚のユピテル君が、SSSランクの才覚のメスガキどもより優秀だと証明されれば……!」
「なるほど、そうである!
『試練連』の新会長であるあのメスガキにも、責任を問えるというわけである!
でも、確実に失敗させられるのであるな?
もしあのメスガキがサンダーバードの羽根を手に入れるようなことがあったら、大変なことになってしまうのである」
「イェス、もちろんです! その点についてもちゃんと考えてあります!
それではさっそく明日、あのメスガキに新しいクエストを押しつけることにしましょう!」
この世界における冒険者の教育機関というのは、主にふたつの組織から成り立っている。
『冒険者教練連合』と『冒険者試練連合』である。
前者は『教練連』と呼ばれ、学校現場の教師陣で構成された組合である。
後者は『試練連』と呼ばれ、『才覚』と呼ばれる才能のランク付けや、学校現場における成績評価の正当性をチェックする。
ようは子供たちに最初のランク付けを行ない、そのあとは学校において正当なる試験や評価が行なわれているかをチェックする組織である。
今までは両者はズブズブで、家柄のある子供には高いランクの才覚が与えられ、学校においても優遇。
貧しい子供は本人の才能にかかわらず、軒並み低い才覚が下されていた。
冒険者の世界は完全に、家柄社会だったのである。
しかし『教練連』の新会長は家柄を考慮せず、純粋なる能力だけで才覚を判定するようになった。
スカイたちが子供の頃、その会長は才覚の判定員を務めていた。
未来の会長はスカイたちの才覚を見抜き、SSSランクを下したという過去がある。
そのため、新会長にとってスカイたちの存在は『脛の傷』と思われていた。
スカイたちが無能な冒険者だと、新会長の資質をも疑われることになるからである。
校長と教頭はその傷をえぐりだし、彼女たちをまとめて失墜させ、ふたたび家柄社会を取り戻そうとしていたのだ……!
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