第4話

 女勇者スカイをリーダーとする、見習い冒険者パーティと出会ったオッサン。

 彼女たちはこのレインブラント王国にある、『ユグドラ総合冒険者学園 レインブラント校』の高等部に通う生徒たちであった。


 ユグドラというのはかつて魔王を倒した勇者パーティのひとりとされる人物で、彼は後進育成のために冒険者のための学校を興した。

 現在では冒険者の学校というのは複数存在しているが、同校は世界じゅうに分校が存在し、最大派閥の学校のひとつとされている。


 ちなみにではあるが、オッサンを追放した勇者のほとんどがこの学校の出身で、勇者ユピテルもそうであった。


 オッサンは彼女たちに目的を尋ねる。


「で、お前たちはこんな森のなかで何をしてたんだ? 水浴びだけってわけじゃないだろ?」


 するとスカイが一枚の羊皮紙を取りだしてオッサンに見せた。

 それは学校からのクエスト指示のようで、この森にいる『ブルベア』というモンスターからツノを入手せよというものだった。


「ブルベア? プロの冒険者でも避けて通るモンスターじゃないか。

 いくら上位職とはいえ、たった5人の高校生で倒せるわけがないだろう」


 女騎士のガーベラが眉間にシワを寄せた厳しい顔で言う。


「だが、やらねばならぬのだ。我々のパーティはたて続けに学校から与えられたクエストに失敗している

 今回も失敗してしまったら、上位職から下位職へと落ちてしまうんだ」


 「まあ、なんとかなるっしょ!」「はい、がんばりましょう!」と、賢者キャルルと聖女セフォンのコンビは頷く。

 くノ一のバンビは黙ったまま。


 オッサンはすぐに、このムチャなクエストに第三者の影を感じ取っていた。

 しかしそれは口には出さない。


「わかった、そういうことなら仲間はひとりでも多いほうがいいな。

 これもなにかの縁だから、俺も付き合おう」


 すると少女たちは「わあっ!」と大喜び。

 オッサンだったときには考えられないほどの歓迎っぷりだった。


 というわけで、オッサンは女子高生パーティの一員となる。

 ブルベアがいるという森の奥に向けて、さっそく行動を開始。


 オッサンが先だって歩き始めたのだが、その姿はたまらなく愛らしい。

 短い足でよちよちと歩き、三角の耳をぴこぴこ、お尻と長いしっぽをふりふり。


「きゃあんっ、もう、かわいいいーーーーーーーーーーーーんっ!!」


 後続の少女たちはたまらなくなって、ヘッドスライディングでオッサンを抱きしめた。


「うにゃあっ!? ちょ、やめろっ! 抱っこはもうじゅうぶんやっただろ!」


「だってぇ、ドンちゃんのかわいいお尻を見てたら我慢できなくなってぇ!」


「ふん、思い上がるな毛玉よ! 自分はただ、毛に覆われた臀部というのはどうなっているか気になっただけだ!」


「よいではないか、よいではないか!」


「ドンちゃんさんは、どこもかしこもかわいすぎます!」


「にんにん」


 少女たちはかわるがわる、オッサンの尻に頬ずりしまくる。

 それがひと段落ついてからも、やたらとオッサンにかまいたがった。


 歩いていると、数メートルごとに後ろからひょいと抱き上げられる。


「ドンちゃん疲れてない? 抱っこしてあげよっか?」


 岩を乗り越えなくてはいけない所で、んしょ、んしょ、と背伸びをしていたら抱き上げられ、


「はい、頂上に着きましたよ。いっぱいがんばりまちたねぇ、えらいでちゅよぉ~」


 子供のようにあやされながら、1メートルほどの岩のてっぺんにちょこんと置かれる。


「もしかして、ドンは高いところが好きなん? ほーら、たかいたかーいっ!」


 最後は脇を抱え上げられ、少女たちの頭上で赤ちゃんみたいに振り回される始末。

 オッサンはとうとうキレてしまった。


「おい、お前らそこに並べ!」


「どうしたの、ドンちゃん?」


「怒ってる顔もかわいいだなんて卑怯ではないのか」


「そ、そうか……? って、違う! いや、俺は怒ってるんだ! これからは俺にチョッカイかけるの禁止! いいな!」


「えーっ、なんでー?」


「なんでって、今は冒険中だぞ! モンスターの奇襲を受けたり、罠があったりしたらどうするんだ!」


「それは拙者が見てるから大丈夫」


「そ、そうなのか……? って、それだけじゃない! 後ろから抱っこされるとビックリして、うにゃあんっ!? ってなっちまうんだよ!」


「そうだったのですね。配慮が足りず申し訳ありませんでした。

 でしたら次からは前から抱っこさせていただきますね」


「そうしてくれ……って、違う! 俺はオッサンなんだぞ!

 オッサンをこぞって抱っこしようとするんじゃない!」


「えーっ、オッサンでもかわいいんだからしょーがないじゃん」


「俺は嫌なんだよ! 若い女に抱っこなんてされたことないから落ち着かないんだ!

 ムラッと……いや、モヤッとした気分になるんだよ!

 それにキャルル! お前は俺のそばに立つのも禁止! いいなっ!」


「ええーっ!? それこそなんでだし!?」


「なんというか、その……ふとしたときに見えるんだよ!」


「見えるって、なにが?」


「ローブの中だよ! お前、ローブの裾が短すぎるんだよ! ミニスカートかよ!?」


 すると、少女たちはキョトンとなった。

 オッサンはしまったと思う。


 女子高生の下着というのはオッサンが目にした時点で、それは故意でなくても大罪となるからだ。

 それで痛い目に何度も遭ってきた。


 せっかく棚からぼた餅で新しいパーティに入れたというのに、これでまた追放か……!

 とオッサンが後悔の念に苛まれていると、その身体がひょいとさらわれた。


「あっはっはっはっ! ドンってばそんなこと気にしてたんだ!

 マジでオッサンみたいじゃん! ロロポックルじゃなくてエロポックルだ!

 このエロポックルめ~!」


「あっ、キャルルちゃんばっかり抱っこしてずるい! ボクもやるっ! うーん、この感触、クセになりそう!」


「もふもふにんにん」


「ほんとうに、神様がくださったような柔らかさです!」


「ふん、こんな毛玉が神の贈り物なわけがなかろう! でも念のために確かめてやるから、こっちにもよこせ!」


「うにゃああんっ!? やめろっ、やめろーっ!」


 女子高生に囲まれ、ひとり押しくらまんじゅうを強いられるオッサン。

 しかしそれは、思いも寄らぬ横槍によって中断させられた。


 ……ずどぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!


 横薙ぎに突っ込んできた黒い影に、少女たちは吹っ飛ばされる。

 最軽量のオッサンは高く宙に打ち上げられていた。


 オッサンは空中でクルリと体勢を立て直すと、突っ込んできたものの正体を確かめる。

 散り散りになった少女たちから少し離れたところで、ずざざーっと制動していたのは……。


 水牛のようなツノと、ヒグマのような巨体を持つ、四つ足の獣であった……!


「あ、あれは……ブルベアっ!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る