第2話
メタモルフォシスの石の効果を受けたオッサン。
太陽がもうひとつ増えたような光がおさまると、身体が宙に浮いていた。
それはほんの1メートルくらいの高さなのだが、なぜかオッサンにはとても高く感じる。
目の前にいる、ポカンとしている若者たちと目が合うほどの高度。
少しの間を置いて、オッサンの身体に引力が戻った。
それでも身体はふわりとしていて、崖っぷちにゆっくりと着地する。
オッサンの視界はとても低くなっていて、天を仰ぐほどに首を持ち上げないと若者たちの顔も見れないほどであった。
若者たちは、依然と唖然とした表情で、オッサンを見下ろしている。
「こ……これが、ロロポックル……! ま……マジかよ……バリバリじゃねぇか……!」
「キエェェェェェェェェェェェェェェェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!」
しかし次の瞬間、空をつんざくほどの奇声が轟き、一同は思わずビクリとなった。
ハッ!? と見上げると、雲ひとつない青空から急降下してくる巨鳥が。
稲光のような翼を鷹揚と広げ、霹靂のように現れたそれはまぎれもなく、
「さ……サンダーバードっ!?」
と叫んだオッサンの身体は、吹き下ろす突風とともに一瞬にして崖から消え去る。
サンダーバードが
若者たちはサンダーバードの羽ばたきで吹っ飛ばされていたが、すぐに起き上がる。
イチョウの葉のような羽根が舞い散るなか、ユピテルは叫んだ。
「お、おいっ! サンダーバードが出たぞっ! バリバリ攻撃するんだ!」
「ええっ!? でもユピテル、羽根ならまわりに散ってるじゃん!? これを拾い集めれば……」
「うるせえっ! あんなバリバリのモンスターを見て黙ってられるかよ!
俺の家は雷の力でのしあがってきた勇者一族なんだぞ! アイツを狩れれば、俺は家の誇りとなれるんだ!
マジカ、いちばんでかい攻撃魔法をブチかませ! フォントは弓で援護だ! ジャンは石でも投げてろっ!」
リーダーに怒鳴られ、わたわたと戦闘準備を始める仲間たち。
上昇していくサンダーバードに、魔術師マジカの放ったマジックアローが襲いかかる。
10本もの魔法の矢が突きたてられても、サンダーバードは失速すらしない。
大空で旋回すると、崖の若者たち向けて再び急降下を始める。
そこに偶然、フォントが放った矢がサンダーバードの
普通の人間であればそのまま落下してしまうが、今のオッサンの身体はとても軽いので、谷に吹く風によってあっという間に吹き飛ばされてしまう。
「わあっ!? あーれーぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
オッサンは木の葉のようにクルクル回転しながら、どこかに飛んでいってしまった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
オッサンはタンポポの綿毛のように、風であっちに煽られこっちに煽られして、大空を振り回されていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
高速で迫り来る地面に、オッサンはぐしゃぐしゃになる最期を覚悟したが、身体はゴムマリのようにぼみゅんぼみゅんと跳ねた。
「まっ、まだっ、生きて、るっ!?」
しかし喜んだのも束の間、跳ねた先に崖があって、そのまま下の森へと落下。
「おっ、終わったぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
さらに勢いづいたオッサンの身体は、スマートボールのように森の中を跳ね回る。
イノシシに突っ込んでは追いかけられ、大きな葉っぱでトランポリンのように飛び上がり、空で鳥たちに突かれ、木々の間をバウンドしながら茂みに突っ込んだ。
「うっ……うううっ、ま、まだ、生きてる……」
あれほどの目に遭いながら死なないどころか、意識がまだあるのは思いも寄らぬ幸運であった。
身体はあちこちが痛いがなんとか動ける。
這いつくばった体勢のまま、ずるずると茂みから出ると、そこは湖であった。
しかし一難去ってまた一難、目の前には水着姿の少女たちが。
少女たちは不自然に茂みが動いたことに気付き、ハッと振り返る。
「わぁっ!? なんかいるよ!?」
「覗きか! けしからん!」
「覗きは、とてもいけないことです!」
「やだ、サイッテー! とっちめてやるし!」
「殺す」
オッサンは、今度こそ命運尽きたと思った。
彼女たちは冒険者のようなので、こんなむさくるしいオッサンがいるとわかったら容赦なく襲いかかってくるだろう。
かつてオッサンは、これと似たような目に何度も遭ったことがある。
今回のような偶然だったり、勇者のイタズラに嵌められたりと。
しかしいくら故意じゃないと言い訳しても、絶対に信じてもらえなかった。
とっ捕まってボコボコにされるのはまだいいほうで、近くに町や村があったら衛兵に突き出されるかもしれない。
となると逃げるのが一番なのだが、オッサンにはもう身体を動かすだけの余力は残っていなかった。
「お、終わった……! 今度こそ……!」
このあとに待っているのは、蔑みの視線とありとあらゆる罵声、ときおり鉄拳、ところにより踏みつけ。
覚悟を決めたオッサンは、きつく目を閉じて耳を塞いだ。
茂みから顔を出した体勢のまま、現実逃避するように身を固くして震えていると、ふいに身体がひょいと持ち上げられた。
そして、
「かっ……かわいいいーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
たまらないといった様子の黄色い声と、柔らかい二の腕の感触がオッサンを包む。
ハッと目を開けると、ビキニのブラが作り出している谷間が迫り来る真っ最中であった。
そのままギュッときつく抱きしめられ、
「ぎゅむーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
いつもなら、ビンタもののオッサンのむさくるしい顔。
しかし今は、少女の発育途中ながらも無限の弾力を有する物体に埋もれていた。
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