Sランクパーティに裏切られ、もふもふな妖精になってしまったオッサン SSSランクの女勇者パーティに拾われ溺愛される ハズレスキルだったバフ能力もいきなり覚醒、美少女たちとともに最強パーティとなる

佐藤謙羊

第1話

 今日のクエストの目的は、聖獣『サンダーバード』の羽根を手に入れること。

 サンダーバードを呼び出すにはふたつの方法があるが、場所はいずれも『閃迅せんじんの谷』で行なう必要がある。


 ひとつめの方法は、聖獣の好物とされている『ロロポックル』を捧げること。

 ふたつめの方法は、雷の夜を待つこと。


 ロロポックルというのは、小さな子供と獣を足したような不思議な存在。

 おとぎ話には必ずといっていいほど出てくるので誰もが知っているが、実際に見たものはほとんどいないという伝説の妖精である。


 オッサンが所属しているパーティはまだ駆け出しもいいところなので、そんな幻の妖精など手に入るわけがない。

 従って後者の方法、雷を待つほかない。


 オッサンもそのことは百も承知していたので、閃迅の谷に着くなりキャンプの準備を始める。

 その最中、仲間たちがオッサンの元へとやって来た。


「おいオッサン、キャンプの準備はしなくていい。バリバリにな」


 パーティーのリーダーであるユピテルが命令口調で言った。


 彼はオッサンよりもふたまわり以上も歳下だが、Sランクの才覚を持ち、将来を嘱望されている高校生勇者である。


 オッサンはテントを固定するための杭を地面に打ち込んでいたが、その手を休める。

 彼のトレードマークといえるシケモクを咥えなおしながら顔をあげた。


「なんだ、サンダーバードが怖くなっちまったのか?

 倒すんじゃなくて、羽根を手に入れるだけだってのに」


「そういうところがムカつくんじゃん?」


 ユピテルの隣にいた戦士、ジャンがいきなり突っかかってくる。

 でも仲間からのイチャモンには慣れていたオッサンは、怒りもせず肩をすくめた。


「まあ落ち着けって、鼻からカンの虫が出てるぞ。

 このあたりは寒いから出てきちまったようだな。

 これが終わったら、あったかいコーヒーを淹れてやっから……」


「マジかオッサン。そういう言葉遣いがキモいって言ってんの。

 それに役立たずのくせして、Sランクのあたしたちになんでそんな上から目線なわけ?」


「ほんとにそうですよね……無駄に歳を重ねているだけなのに」


 魔術師のマジカと、僧侶のフォント。

 とうとうパーティの女性陣までもがオッサンに絡んでくる。


 オッサンはパーティ内の空気が険悪になることには慣れていたが、今日はいつもと違う雰囲気を感じ取り、立ち上がった。


「お……おい、みんないったいどうしちまったんだ?」


「オッサン、バリバリのコイツがなんだかわかるか?」


 勇者ユピテルはポケットから取りだしたクルミくらいの大きさの白い玉を、指に挟んでオッサンに見せる。

 オッサンは目を剥いた。


「そいつはもしかして、『メタモルフォシスの石』……!? 幻の秘宝じゃないか!?

 本物か!? まだ高校生のお前が、どうしてそんなものを……!?

 あっ、また家から持ち出したんだな!?」


 ユピテルは勇者の家系に生まれた、いわゆる『ボンボン』であった。

 装備やアイテムは親からもらった最高級のものを使っている。


 たまに、オッサンもビックリするような超レアアイテムが飛び出すことがあった。

 それらはユピテルが家の倉庫から黙って持ち出したものなのだが、『メタモルフォシスの石』は子供のイタズラではすまされないレベルの秘宝である。


 しかしユピテルは悪びれる様子もなくニヤついていた。


「ひと目でこの石がなにかわかるとはバリバリじゃねぇか。

 どうやら、底辺職とはいえダテに長いこと冒険者をやってるわけじゃねぇようだな。

 ってことはコイツの効果もバリバリ知ってるよな?」


「たしか、効果を受けた者を妖精に変えるんだよな?」


「そうだ。コイツをオッサンにプレゼントしてやるよ。いままでのお礼として、バリバリってな」


 ……じりっ。


 ニヤニヤ笑いで、にじり寄ってくる若者たち。

 オッサンはよからぬ気配を察して後ずさる。


「ま、まさか、お前たち……」


「そうだ。コイツでオッサンを幻の妖精、ロロポックルに変えようってことになったんだ。

 サンダーバードの羽根を手に入れるのに、いつ来るかわからない雷の夜を待つだなんて面倒くせぇことやってられねぇからな。

 このアイデア、バリバリだろ?」


「ああ、さすがはユピテルじゃん! こんなところで何日もキャンプするなんてイヤだからな!」


「マジ、オッサンってキモいんだよね。なにかっていうと人の身体を触ろうとしてくるし」


「ええ、ほんとに。癒しの祈りを捧げるごとにオッサンに手を握られて、ゾッとしてました」


「そ、それは俺の職業柄しょうがないことだろ!

 そうしなきゃ、力を付与エンチャントできないんだから!」


「オッサンってさぁ、勇者パーティからバリバリ追放されまくってきたんだよな?

 だから俺たちみたいな学生パーティに入って、パシリみたいなことやってるんだろ?」


「うわぁ、それって痛々しいにもほどがあるじゃん」


「マジで追放されまくるのもわかる気がするわー、役立たずのクセに偉そうなんだもん」


「本当に哀れですね。とうとう歳下のパーティからも三くだり半を突きつけられるだなんて」


「でもさぁ、ただ追放すんじゃなくて、こうやって最後までバリバリに利用するのって俺らが初めてだろ?」


 オッサンは気付くと、閃迅の谷の崖っぷちにまで追いつめられていた。

 オッサンはすっかり言葉を失っていたが、このままではヤバと必死に仲間たちを説得する。


「ば……バカなことはやめろっ! 考え直すんだ!

 メタモルフォシスの石を使ったからって、俺がロロポックルになるとは限らないんだぞ!

 それ以前に、そんな貴重な石を使ってサンダーバードの羽根を手に入れるなんて、価値がまるで釣り合ってないだろ!」


 するともはや他人のようになってしまった若者たちは、ゲラゲラと笑った。


「あははははは! いーんだよ! オヤジが持ってるメタモルフォシスなんて、バリバリどーでも!」


「ぎゃはははは! 新たに手にいれたサンダーバードの羽根のほうが、俺たちにはよっぽど価値があるんだからな!」


「きゃはははは! 高校生でサンダーバードの羽根を手にいれるなんて、マジかっていうくらいヤバいっしょ!?」


「うふふふふっ! これで私たちは学園の英雄です! しかもうっとおしいオッサンもポイできるなんて、まさに一石二鳥ですね!」


 瞳孔の開ききった彼らにオッサンは戦慄する。


 そしてついに、運命の時が訪れた。

 勇者ユピテルはメタモルフォシスの石を、惜しげもなく振りかぶる。


「野郎は40過ぎて童貞だと、妖精になれるっていうじゃねぇか!

 オッサンが童貞かどうかなんて知りたくもねぇが、まわりにはバリバリにそう言っといてやるよ!」


「ぎゃはははははっ! 童貞をこじらせて妖精になっちゃったなんて、それ最高じゃん! さすがユピテル!」


「きゃはははははっ! マジウケるんですけど! オッサン、みんなにもそう言いふらしといてあげるね!」


「うふふふふふふっ! そしたらいい笑い者になるでしょうね! 本当に、オッサンには最高の最後ですね!」


「やっ……やめっ!」


「あばよ、オッサン!」「じゃーな、オッサン!」「ばいばーい、オッサン!」「ごきげんよう、オッサン!」


「……やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 カッ!


 メタモルフォシスの石がオッサンに投げつけられた瞬間、あたりは閃光に包まれる。

 オッサンは目も開けられないほどのまばゆい光と、身体が羽毛になったような不思議な浮遊感を覚えていた。

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