第61話 大罪魔人カイルロッド=デルピエロ
「その吐き気がするほど真っ黒なオーラ……人間じゃないってのはどうも嘘じゃないみたいだな。魔人ってことなら、さっき八ノ型『シンゲツ』を簡単に避けたみせたのにも納得だ」
「へぇ、魔人と聞いて即座にその存在を受け入れ、なおかつ動揺もしない。さすがだねぇ、勇者を継ぐ者は」
「神明流を知っているのか?」
「大昔、仲間の魔人が2人ほど殺されたからね、名前くらいは憶えているさ」
「じゃあお前で3人目ってことだな」
「そうだねぇ、もし君たちが一致協力して向かってきていれば、魔人の中じゃ
戦闘力が低いボクは、為すすべなく討たれていただろうね。だけど――!」
そこでカイルロッド=デルピエロは軽くタメを作ると、人を騙して破滅に追い込んだ悪魔が、さあどうだと種明かしした時のような笑い顔になって言った。
「お前たちは事もあろうに勇者の力を持つ者同士でつぶし合った! 生き残った方も力を使い切ってへとへとだ。これを笑わずに何を笑うって言うんだい? しかもあの強い大男の方ならまだしも、残ったのは弟子ときた! さっきの戦いを見ていたけれど、君程度ならボクでも余裕で捻りつぶせるのさ!」
「えらく自信満々だな。だったら試してみるか?」
「元よりその気さ。なにせ楽しみにしていた慰安旅行を台無しにされたんだからね。憂さ晴らしをしないと気が済まないよ。まったく、いい女を何人も用意させたっていうのにさ」
「なにが慰安旅行だ! また姉さんみたいに若い娘を凌辱して弄ぶつもりだったのか!」
カイルロッド=デルピエロのその暴言のごとき言いように、リュージの中で怒りが嵐のように激しく荒ぶっていく――!
「姉さん? 誰のことだい? 悪いけど犯した女が多すぎて誰のことを言っているかわからないんだよねぇ」
「7年前の夏に、シェアステラ王国にお忍びで来たお前がさらって犯して凌辱した若い娘のことだ! 俺と同じ黒い髪に黒い瞳の! 忘れたとは言わさねぇぞ!」
「ん……ああ、あの女か。そうかあの女は君の姉だったのか」
「そうだ――!」
「そうかそうか、あれは君の姉だったのか。つまりこれはその復讐というわけかい。なるほどね」
「やっとてめぇの置かれた状況がわかったみたいだな」
「ああ、理解したよ。そして君のおかげで思い出した。あれは実にいい女だったよ。どれだけ犯し尽くしても、泣きながら最後まで好きな男の名前を必死に呟いていたんだからね」
「てめぇ……いい加減にしろよ」
「容姿が美しいだけでなくどこまでも一途な心。ああいう最高の女を無理やり犯して犯して、身体だけでなくその尊厳まで犯し尽くすのは、最高に気持ちがよかっ――」
「神明流・皆伝奥義・五ノ型『乱れカザハナ』!」
カイルロッド=デルピエロの口から出る下種を極めたセリフに、リュージの怒りはついに頂点に達した。
最後まで言い切るのを待つまでもなく、冬に乱れ舞う風花のごとき荒れ狂う斬撃の舞をお見舞いする。
しかし、
「一発じゃなくて連続技なら斬れると思ったのかい? だったら甘いね!」
その言葉とともにカイルロッド=デルピエロは、リュージの放つ剣の乱舞をするりと抜けると一気にリュージに肉薄した。
勢いそのままにリュージの腹を蹴り飛ばす。
「ぐぅ――っ!」
わずかに防御が間に合わなかったリュージは、腹に直撃を受けて派手に吹っ飛ばされてしまった。
それでも『気』のコントロールと受け身によって、ダメージは最小限に抑えると、即座に立ちあがって刀を――菊一文字を構えなおした。
「ははっ、全然大したことないな! どうした、そらそらそら!」
そんなリュージを、カイルロッド=デルピエロの猛攻が襲う。
カイルロッド=デルピエロは武器は持っていない。
攻撃はただ力任せに殴って蹴るだけだ。
しかしはそれはまるで巨大な金属ハンマーで殴打するかのごとく、一打が、一蹴りが、絶大な威力を持っているのだ――!
「ぐぅっ、この――っ!」
その重たく激しい連続攻撃を、リュージはギリギリのところでなんとか堪えて防御する。
『気』で強化した菊一文字で、苛烈な攻撃を必死にさばいて、しのぐ。
サイガが名刀と言っただけあって、菊一文字はその刃にリュージの発した『気』をあますことなく溜め、激烈なる攻撃を受けても折れることなくリュージとともに戦い続ける。
カイルロッド=デルピエロの一方的な攻撃がしばらく続いた後、
「ちっ、無駄にしぶといね、君ってやつは。どうせ手も足も出ないんだから、無駄なことをせずとっとと死ねよな」
どうにも攻めあぐねたカイルロッド=デルピエロは、少しイラついたように言いながらリュージからいったん距離を取った。
それでもカイルロッド=デルピエロからは絶対に負けない自信と、弱者をいたぶる余裕が感じられた。
だからそんなカイルロッド=デルピエロに向かってリュージが放った言葉は、カイルロッド=デルピエロにとって全くの予想外だった。
「お前の強さはだいたいわかった。次で決める」
そう言うとリュージは流れるような動作で菊一文字を鞘に納めたのだ。
そしてそのままわずかに腰を落とすと、右手をそっと柄に沿えて抜刀術の構えをとった。
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