第22話 王都に、殺戮の雨が降りそそぐ。

 アストレアと別れて部屋を抜け出したリュージは、まずはしっかりと食事をして体力を回復させると、ミカワ屋会長サブリナ=ミカワが王宮にやってくるのを待った。


 そして御用商人を拝命したサブリナが、急いで店へと戻る馬車をこっそりと尾行した。

 神明流・初伝『剣気発生はっしょう』によって身体能力を向上させたリュージにとっては、馬車についていくくらいは造作もないことだ。


 そして今、サブリナを襲撃したゴロツキどもを前に、リュージの冷徹なる殺意が牙をむいた。


「死ね、クズども。神明流・皆伝奥義・三ノ型『ツバメ返し』』


 リュージが刀を一振りするたびにゴロツキの悲鳴が上がり、空を飛ぶツバメすら落とす鋭い連続技によって、血しぶきが右に左に舞い飛んでいく。


「なんだてめぇ――ぎゃぁっ!?」

「やんのか――ひぎぃっ!?」

「よくも兄貴を――ぎゃっ!」

「た、助けて――ごふぁっ!」


 たかが50人ちょっとのゴロツキなど、リュージの相手になりはしなかった。

 もはやこれは対等な戦いではなく、一方的な殺戮。


 魔人を殺したという勇者の力と、雇われのゴロツキ。

 両者の力は、大人と子供というくらいに次元が違っていた。


 しかしだからといって、リュージは容赦したりはしない。


 自分の邪魔をするものは殺す。

 それが徒党を組んで暗殺を企むような悪であるならば、ためらう理由が入り込む余地は欠片も存在しないのだから。


 しかもこいつらは最愛の姉をさらったグラスゴー商会の手下どもなのだ。


「ぎゃーぎゃーガキみてぇにうるせぇんだよ。早く殺してくれとお願いでもしてるのか? 安心しろ、全員等しく殺しきってやるからよ」


 リュージは目に映るゴロツキどもを、顔色一つ変えずに片っ端から淡々と斬り伏せていった。


 王都に、殺戮の雨が降りそそぐ。


「これで少しは余の中も真っ当になるかな?」


 あまりに一方的すぎて、リュージは刀を振るいながら思わずそんなことをつぶやいてしまうほどだった。


 ものの5分もかからないうちにリーダー格以外のゴロツキ54人は全員、リュージに皆殺されるに至った。


「あ、あ、あ、あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――っっ!!!!」


 そして自らが築いた死体の山の中に悠然と立つ悪鬼のごときリュージの姿を前に、ついにリーダー格のゴロツキは恐怖のあまり逃げ出した。

 恥ずかしいことに派手に失禁してしまっている。


「ったく、仲間を見捨てて自分だけ逃げるなんざ、まさにクズの鑑だな、反吐が出るぜ」


 そんな最後のクズを追いかけようとしたリュージに、


「た、助かったよ君、ありがとう。感謝してもしきれない、君は命の恩人だ」


 ここまで息を飲んで成り行きを見守っていたサブリナが、馬車から降りて感謝の声をかけた。


 普段のリュージならあっさりと無視しただろう。

 基本的にリュージは自分の復讐以外に興味がない。


 けれどリュージは自分からサブリナに近づくと、さっきまでの冷たい表情とは一転、優しい笑みを浮かべて言った。


「これからもいろんな妨害があるだろうが頑張れよ。あんたの成功を、きっと天国のパウロ兄も望んでいるからさ」


「え?」


「それだけだ」


「待ってくれ、まだ何もお礼をしていない。それに君の顔を昔どこかで……それにパウロって――」


 しかしリュージはサブリナの言葉には答えず、もう話すことはないとばかりにくるりと背を向けると、逃げたリーダー格のゴロツキの跡を追い始めたのだった。

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