第15話 過去編1「リュージの夢」
夢を、見ていた。
まだリュージが何も知らない子供だった頃の夢だ。
まだ姉さんがいて、パウロ兄もいた頃の幸せな夢だった。
「こらリュージ、またお勉強抜け出したの? ちゃんと勉強しなきゃダメでしょ」
勉強を抜け出して木の枝で剣術ごっこをして遊んでいたリュージ。
そんなリュージを見つけた姉のユリーシャが、呆れたように小言を言った。
ユリーシャは街一番の器量よしと評判で、リュージにとっても自慢の姉ではあったものの。
ユリーシャは勉強についてはかなり厳しくて、よく抜け出しては遊んでいたリュージを見つけてはこうやって叱るのだった。
「姉さん……だって算術は難しいんだもん。掛け算とか割り算とか、あんなのなんの役に立つんだよ」
「たくさんの数をパッと数えられないと、パウロみたいになれないわよ。パウロは凄いんだからね? わたしとほとんど変わらない年なのに、近々支店を任されることになったんだから」
「俺はパウロ兄や姉さんみたいに頭良くないもん。数字見たら頭の奥がウーってなるんだ」
「まったくもうこの子ったら……」
15にもなってまだ算術の価値を理解できないリュージのアホさに、ユリーシャは思わずため息をついた。
「それにほら、剣術が強ければ騎士になれるかもしれないじゃん。姉さん知ってる? 近衛騎士っていって、偉い人を守る特別な騎士がいるんだって。すごいだろ? 俺はそれになるよ、それで悪い奴らからお姫様を守るんだ」
「はぁ……ねえパウロ、パウロもリュージになにか言ってあげて。パウロの言うことならこの子も素直に聞くだろうし」
あっけらかんと子供らしい壮大な夢物語を語るアホなリュージに、ユリーシャはため息をついて、隣にいたパウロに援護を求めた。
「そうだね……」
パウロは優しくていかにも誠実そうな口元に手を当てて、少し考えた後、
「まぁ人それぞれじゃないかな?」
にっこり笑って言った。
「ほら!」
「なにがほら、よ。まったくパウロってば、いつもリュージには甘いんだから」
「あははは……」
拗ねたように言うユリーシャに、パウロは困ったような笑みを返す。
それを見たリュージはニヤッと笑って言った。
「あ、わかった~。姉さんってば、パウロ兄にもっと優しくしてほしいんでしょ?」
「な、なに言ってるのよ」
「うわっ、図星だ! 姉さんの顔真っ赤になってるし! やーい、ラブラブだ~ラブラブ~ラブラブ~」
「だからなに言ってるのよアホリュージ!」
「照れてるし~! 俺知ってるんだぜ、姉さんが時々部屋で1人の時にベッドで『パウロ……もぞもぞ……あっ』とか切なく言ってるの」
「な、なななにゃっ!?」
「あははは、ねえさんもう耳まで赤くなってるよ? タコみたいだ」
「なってません!」
「ってことで、パウロ兄はもっと姉さんを甘えさせてあげてね! 姉さんはしっかり者に見えて、すごく甘えたがり屋なんだから」
「あ、こらどこ行くのよリュージ!」
「ちょっと友達と遊んでくる! 暗くなる前には帰るから! 2人はどうぞごゆっくり~」
「帰ったら算術の特訓だからね! 今日の課題が全部できるまで晩ご飯抜きだからね! わかったわね!」
「わっかりませーん」
子供の頃のリュージは貧しいながらも幸せな生活を送っていた。
自慢の姉がいて、パウロ兄がいて。
算術の勉強は大嫌いだったけど、この幸せが明日も明後日も、ずっと続くのだと無邪気に信じていた。
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