第6話 フレイヤの罪

 王宮の中庭には既にたくさんの群衆が集まっていた。


 そして未だ抵抗を続ける一部の勤勉な兵士たちを、多勢に無勢で叩きのめしながら、次から次へと王宮の中へとなだれ込んでいる。


 リュージはそんな群衆の真っただ中にフレイヤ王女を下ろした。


「あの、リュージ様、どうしてこんなところで下ろしたのでしょうか?」


 不思議そうに小首を傾げるフレイヤ王女。

 しかしリュージはそんな彼女に視線を向けることもなく、大きな声を張り上げて周囲に向かって叫んだ。


「お前らよーく聞け! こいつはライザハット王の娘のフレイヤ王女だ! どうだ、実に美しい娘だろう!」


「りゅ、リュージ様? いったいなにを――」


「そうだ! お前らから搾り取った血税で、自分だけ贅沢の限りを尽くしてきた女がこいつだ!」


「りゅ、リュージ様? あの、さっきから急になにを言って――」


 突然の展開にフレイヤはひどく混乱してしまっていた。


 しかしリュージは、あたふたするフレイヤなんてお構いなしに言葉を続ける。


「お前らの娘が母親のおさがりを着て新しい服も買えずに我慢していた時、こいつは新しいドレスを次々に買い替えていた!」


「なんてやつだ!」

「許せない!」

「殺してしまえ!」


 フレイヤに向かって次々と群衆からの罵声が飛んでくる。


「ひっ――!?」


 四方八方から向けられる敵意のこもった視線に、フレイヤは完全に恐怖で足がすくんでしまっていた。


「お前らの中には高すぎる税金を払えなくて、大事な娘を泣く泣く商人に売ったやつもいるはずだ! お前たちの娘が娼館に送られて知らない男の相手をさせられていた時、こいつはのうのうとパーティで貴族や大商人の子息たちと遊び惚けていた!」


「王女フレイヤ……!」

「お前たちのぜいたくのために、俺の娘は……!」

「同じ目にあわせてやる……!」


「リュージ様、も、もうやめてください!」


 すがるようにリュージの手を取ろうとしたフレイヤを、リュージは無言で突き飛ばした。

 フレイヤは尻餅をついてしまい、スカートがめくれて精緻なフリルがたくさんついた高価な下着があらわになる。


「きゃっ!? み、見ないでください!」


 男たちの不穏な視線が自分の股間に集中していることを察して、フレイヤは顔を真っ赤にしてスカートの裾を戻した。


「さぁ今ここにその元凶の女がいる! ほら、どうしたお前ら! ここには誰もこいつを守るものはいない! お前らの好きにしていいんだぞ? 積年の恨みを晴らす絶好の機会がやってきたんだ、何を呆けてるんだ!」


 そこで中庭に来て初めてリュージはフレイヤの顔を見ると、さわやかなイケメンスマイルから一転、悪魔のような笑みを浮かべながら神速の抜刀術を放った。


 斬り裂かれたフレイヤのドレスがスルリと脱げ落ちる。


 神明流の免許皆伝を持つリュージの絶剣技にとっては、身体を傷つけずに服だけ斬り裂くことなど朝めし前だ。


「きゃぁっ!?」


 公衆の面前で今度は全裸にされてしまったフレイヤは、耳や首すじまで真っ赤にしてしゃがみ込んだ。


 両手で必死に胸と股間を覆って隠しているものの、真っ白な肌や隠し切れない大きな胸、美しく形のいいお尻は周囲の男たちの性欲を否が応でもそそってやまない。


 一瞬の静寂の後、


「やってやれ!」

「あの女を犯せ!」

「あいつのせいで俺の娘は娼婦にされたんだ!」

「娘のかたき討ちだ!」

「犯しつくしてやる!」


 せきを切ったように男たちがフレイヤへと殺到した。

 フレイヤを犯そうとハイエナのように我先にと群がる。


「ぐっ、あっ、リュージ様、助けて、ひぎぃ、あぐっ、やめなさい、そのような汚らしいものをこの私に近づけるなどと、あぐ、うっ、えぐっ、げほ――リュージ様、どうして……こんな……」


 両手足を掴まれて身動きをとれない状態で身体をまさぐられながら、目だけをリュージに向けて懇願するように真意を問うフレイヤ。


「ははははっ、なんでだと? 姉さんが受けた辱めを、今からお前も味わうんだよ。因果応報ってやつだ」


「リュージ様の、お姉さん……?」


「7年前の夏、俺の姉さんはこの国に視察に来た神聖ロマイナ帝国の皇子に犯され、お前の父であるライザハット王に嬲られ、貴族どもに汚され、兵士たちにも輪姦されて、婚約者まで殺されたことを知って自殺した」


「7年前……たしか神聖ロマイナ帝国のカイルロッド皇子がいらして……そう言えばその時に町娘を一人無理やり連れ込んで……でもわたくしにはそんなの関係ない……」


「関係ないだと? ならわかるように説明してやるよ」


「え……?」


「姉さんが貴族たちに輪姦されたとき、笑いながらそれを見てアレコレ指示をして楽しんでいた若い女がいたそうだ。さて、この話になにか覚えはないかなフレイヤ王女?」


「あ、えっと……」


 リュージの説明を聞いたフレイヤ王女が、視線を逸らして言いよどんだ。


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