第7話 復讐完了2:フレイヤ王女

「その女ってのはお前のことだよな、フレイヤ王女?」


「あ……ああ……」


 今やフレイヤの顔は真っ青になっていた。

 薄汚い庶民の男どもに、高貴なる王女の身体をまさぐられているからだけではない。


 リュージの顔にどことなく覚えがあることに、フレイヤはついに思い至ったのだ。


 思い出すのは7年前の夏のことだ。


 カイルロッド皇子がさらって犯し、父がさらに嬲り、さらには貴族たちが輪姦したた町娘は、庶民とは思えないほどの美人だった。


 手間と暇とお金をかけて頑張って得た自分の美しさを、生まれ持った本物の美しさで凌駕するその庶民の存在に、フレイヤはムカついてムカついて仕方なかったのだ。


 だからその庶民の女が散々に犯されるのを見て、凌辱されるのをわざわざ見に言って、ざまぁみろと嗤っていたのだ。

 だけでなく、時にはああいうことやこういうこともしてみたら?と提案までした。


 庶民の分際で自分よりも美しいその娘が、豚のように肥えた中年貴族たちに汚され嬲られ、心が壊れていくさまを見るのは、フレイヤにとってとても楽しいことだったのだ。


 そしてリュージの言葉で、今の今まですっかり忘れてしまっていた当時の記憶が、フレイヤの頭にありありとよみがえっていた。


「お前は今からこいつらに散々に犯されるんだ、穴という穴に欲望を突っ込まれて、身体も心もボロ雑巾のようになるまで女としての尊厳をメチャクチャに踏みにじられるんだよ。あの時姉さんがされたようにな」


 リュージの瞳が憤怒の激情に染まる。


「ひっ……やめて……謝るから、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。一生かけて償うから、だからお願い、やめて――」


 これから自分の身に起こることを想像して、ついにフレイヤは泣き出してしまった。


 もともと蝶よ花よと大事に育てられ、幼い精神構造のまま大人になった自己中の我がままお姫様だ。

 粗雑な薄汚い庶民の男どもに犯しつくされるなど、フレイヤの心ではとても耐えられはしない。


「泣いて喚いて後悔しても、今さらもう遅いんだよ。お前は今から人ではなく、男を受け入れるだけの生き人形になるんだ。お前に待っている未来ははただ一つ、いつ終わるとも知れない生のはけ口とされ続ける、死ぬよりも辛い絶望だけだ」


「まさか、リュージ様はわたくしを最初からこうするつもりで――」


「なんだ今さら気付いたのか? 父親に似て本当に愚かな女だな」


「そんな……リュージ様はわたくしを助けてに来てくれた白馬の王子様じゃなかったのですか?」


「俺が白馬の王子様だと? はっ、あはははははっ! そうかそうか、俺の演技もなかなかのものだったわけだ。復讐が全て終わったら、いっそ役者にでもなってみるかな?」


 フレイヤの甘ったれたお花畑のような考えを、リュージは笑い飛ばした。


「こ、この外道! こんなことをして、お父さまが絶対に許しませんからね!」


「へぇすごいんだなお前のお父さまってやつは」


「当然です、わたくしのお父さまはこの国の王なのですから、だからあなたたちも下がりなさい! 下郎ども、図が高いのですわ!」


 父であるライザハット王の権威をかさに着たフレイヤの一喝で、群がっていた男たちの動きが一気に緩慢になった。

 顔を見あわせてお互いの出方を探ろうとする。


 このまま怒りと欲望のままフレイヤを犯してしまうか。

 それとも捕虜として扱って、今後の交渉カードに使うか。


 おおかたそんな損得勘定を考えているんだろう。

 暴徒のくせに意外と理性的なんだなと、リュージは少しだけ感心していた。


 しかしそれではリュージの目論見は達成されない。

 だからリュージは最後のカードを切ってやった。


「いやーそうかそうか、そりゃすごい。死んでなお王として働くとはい本当にすごいな、お前の父親ってやつは。感心するよ」


「え……? 死んだ……お父さまが……?」


「ああそうさ、ついさっきここに来る前に俺が殺した。姉さんの仇だからな。だからもうお前を守ってくれるお父さまはこの世にはいないんだよ」


「嘘……だってリュージ様はお父さまを助けてくれたって言ってたはず……」


「おいおい、俺はな、『逃がした』と言ったんだぜ? どうしようもないこの世から、あの世に逃がしてやったんだ」


「そ、そんなのは詭弁です! この嘘つき!」


「だよな、実は俺もそう思う。だから正直に言うな、お前を騙すために嘘をついた」


「くっ、この、いけしゃあしゃあと……!」


「いやー、証拠を見せろとか言われると思ったんだけど、お前が簡単に信じてくれるバカで助かったよ」


「な……っ!」


「ってなわけでもうライザハット王はこの世にはいない。そういうわけだからお前ら、この女を思う存分好きにしていいんだぜ?」


「お父さまが死んだ……お父さまが……つまり、誰もわたくしを守ってくれいない……あ、ああ、ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」


 絶望して絶叫するフレイヤに、今度こそ男たちは一片の容赦もなく襲いかかった。


「りゅ、リュージ様、お願いです、なんでもしますから! どうか助けて! お願い、わたくしは本当に心を入れ替えます! 品行方正に清く正しく生きます! なんでもしますから! だからお願い助けて――」


 男たちに蹂躙され穴という穴に欲望を突き立てられるフレイヤが、泣きわめいて助けを求めてくる。


 しかしリュージはそれに答えない。

 ただ静かに、男たちに蹂躙されるフレイヤを見つめ続ける。


 殺さないことはわずかなリスクではあるものの、王女として何不自由なく舐めた人生を送ってきたフレイヤのことだ。

 散々に使いつぶされて廃人になるのが関の山だろう。


 リュージはそんなことを考えながら数分、尊厳を蹂躙され心を壊されていくフレイヤの様子を眺めていたが、


「チッ、自分でやらせたとはいえ最悪の気分だな。こんな目に姉さんがあわされたかと思うと本気で吐きそうだ」


 そう小さく言い残すと、欲望の限りを叩き込まれて泣きわめくフレイヤに背を向けて、次なる目的地であるアストレア王女が幽閉されている北塔へと歩き始めた。


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