第4話 復讐完了1:ライザハット王

「なぁ王さま。俺の姉さんが嘘を言ったのかな? それともまさかあんたが俺を騙そうとして、嘘を言ってるのかな? なぁ王さま、どっちなんだ?」


 そう尋ねるリュージの声色は、まるで地獄の底から響いてくるようにおどろおどろしいものだった。

 ライザハット王を今すぐにでも殺したいという衝動が爆発してしまわないように、リュージは必死に抑えていたのだ。


「……」


「おら、さっさと答えろよ? 最初に俺は言ったぞ、誠実なやつは嫌いじゃないってな。沈黙は不誠実の表れだ、次に黙ったらその時点で殺す。二度は言わない」


「あ、あなたのお姉さまが嘘を言ったのでは……」


「それがお前の結論か? よく思い出せよ?」


「そ、そう……だ、これで間違いはない……」


「そっかそっか、そういうことか。悪いのは俺の姉さんか。いやはやまったく、その答えはどうしようもない程にギルティだ――」


 リュージは冷たく突き放すように言うと、ライザハット王を容赦なく袈裟斬りにした。

 ライザハット王が信じられないといった風に大きく目を見開きながら、あお向けにぶっ倒れる。


「な、なぜ……」


 ライザハット王が驚きの表情でリュージに問いかける。


「なぜだと? 俺の姉さんが嘘を言うわけないだろう。嘘を言う必要がない。つまりあんたは今、嘘をついたんだ。子供だってわかる」


「かはっ、こほ……だ、だが……」


「しかも、だ。こともあろうに被害者である姉さんを、嘘つきに仕立てようとしたんんだ。これはなんて不誠実なんだろうか? あんたに許される余地はなく、その罪はもはや死でもってしかあがなえない」


「だ、だが……ワシがお前の姉を、犯したと言えば……お前はワシを、殺しただろう……?」


「当然だろう? 姉さんの尊厳を奪ったクズを生かしてなどおくものか」


「それでは、ワシがどちらを、選んでも……殺されていた、ではないか……」


「なんだなんだ、今さら気付いたのか?」


「な、に……?」


「そうさ、あんたが助かる可能性は最初からゼロだったんだよ。なぜなら俺はお前を殺しに来たんだからな」


「なっ、答えれば、助けてくれると……約束したではないか……」


 ライザハット王は息も絶え絶えになりながら、信じられないといった顔でリュージを見つめる。


 ははっ、いったい何を言ってるんだこいつは?

 ライザハット王があまりに愚かで、リュージはおかしくてたまらなかった。


「やれやれ、お前は救いようのない馬鹿だな。そんなもの嘘にきまってるだろ」


「な……にっ」


「お前に復讐するために生きてきた俺が、お前を生かしておくわけがないだろう? 聞きたいことを聞けたらもう用はない、当初の目的通り殺すだけだ」


「――っ」


「王さまってのはそんな簡単なこともわからないんだな。今まで散々自分は同じことを他人に強いてきたってのによ?」


「ワシを、だまし、たのか……この卑怯者めが……」


「まさかお前みたいな人を人とも思わない自己保身の塊みたいなクズから、そんな言葉をかけられるとはな。ジョークとしても笑えないぜ」


「許さんぞ……絶対に、許さんぞ……」


「ふぅん……ああそうだ、一つ言い忘れていたことがあったから言っておこうか。お前を殺したら、次はお前の娘の番だ」


「なん……だと……? ま、待て、頼む、そ、それだけは、勘弁してくれ……フレイヤだけは助けてくれ……あの子はワシの宝、なのだ……」


「くっはっ、あはははははは!」


「な、にが……おかしい」


「そりゃ可笑しいってなもんだろ? 姉さんもあの時きっと助けを求めたはずだ。あんたはその時に姉さんを助けたのかよ? 自分ができないことを他人にやらせてんじゃねーよ、バーカ」


 リュージはあきれたようにつぶやくと、もう用はないとばかりに床に横たわるライザハットの顔を強く蹴り飛ばした。


 ゴキッと首の骨が折れる音がして、それがトドメとなってライザハット王は完全に生き絶えた。


「ふぅ……姉さん、パウロにい、まずは1人目だよ」


 刀を鞘に戻したリュージは自分の両手首を――正確にはそこにある1対のミサンガを見て言った。


 右手に巻いた赤いミサンガは、婚約した時にパウロ兄が姉に贈ったもの。

 左手に巻いた青いミサンガは、お返しに姉がパウロに贈ったものだ。


 日々の暮らしで精いっぱいの庶民は、王侯貴族や大商人みたいに婚約指輪を買うなんてことは、逆立ちしたってできはしない。


 だから代わりに、身に付けられる色違いで同じ小物を贈りあうのが習わしだった。


 そしてその、叶うことのなかった2つの婚約記念は、今はリュージの大切な大切なお守りとなっていた。


 どんな辛いときでも、くじけそうなときでも、このお守りの存在がリュージの心を奮い立たせてくれるのだ。


 少しだけ感傷に浸ってから、リュージは思考を冷徹な復讐者のそれへと戻した。


「いや1人じゃないか? 正確にはあの場にいた上流貴族も含めれば11人かな? まぁ数はいいさ。どっちにしろ姉さんとパウロ兄の人生を奪ったやつらは、俺が全員皆殺しにしてやるんだから」


 それがあの日、リュージが定めた絶対にして唯一無二の生き方ルールなのだから。

 

「でもしまったな、あの上流貴族の奴らも、もっと自分の罪を理解させてから殺すべきだったよな。でも王座の間でライザハット王の顔を見たら、込み上げてくる怒りで他の奴らはただの邪魔者に思えて、ついついあっさり殺しちまったんだよな。失敗失敗、次はもっとうまくやらないと」


 などと反省の弁をつぶやきながらリュージは玉座の間を後にすると、次なる目的地へと向かった。


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