第3話 ライザハット王の罪
「お、思い出しました! 神聖ロマイナ帝国第12皇子カイルロッド様にございます。お忍びで我が国にご逗留あそばされました」
「第12皇子カイルロッドで間違いないな?」
「も、もちろんです! 間違いはありませぬ!」
「そうか」
第12皇子ともなれば皇位継承権はほぼ回ってこない。
となれば。
国を背負う気概も心意気もなにもなく、ただただ暇にあかせて好き放題に舐めた人生を送っているのだろう。
そして7年前。
そんなクズに、貧しいながらも懸命に生きて想い人と愛を育んでいた姉さんはさらわれ、汚され、嬲られ、輪姦されゴミのように捨てられたのだ!
そして姉さんをなんとか助けようと王宮に向かった婚約者のパウロ
「もう一つ聞くぞ。7年前のあの時、町娘が一人さらわれた。そして皇子に好き放題に犯されたんだ。皇子をもてなしたお前もその件に関わっていたはずだ、当然覚えているよな?」
「あ、ああ……あの美しい娘のことだな、もちろん覚えているとも。あの娘には可哀そうなことをしたとワシも思っておるのだ」
「ちなみに俺の姉さんなんだよ。そしてあの後、首をつって死んだんだ」
「うぐ……」
「今、可哀そうなことをしたと言ったな? 姉さんの人生を滅茶苦茶にしておいて、そんな簡単な言葉で済むと本当に思ってるのか! ああっ!?」
リュージの心に、嵐のごとき激しい怒りが巻き起こった。
奥歯をギリリと噛みしめる。
リュージの烈火の如き怒りがライザハット王にも伝わったのか、
「ま、待つのだ! ワシは好色なカイルロッド皇子に命令されて仕方なくあの娘を――お前の姉をさらわせたのだ!」
「仕方なくだと?」
「そうだ、仕方なくだ! 考えても見よ、いと尊き神聖ロマイナ帝国皇子の命令を、実質属国扱いされているシェアステラのような小国の王に過ぎぬワシに、拒めると思うか? 無理だ、拒めはせぬ。な、そうであろう!?」
ライザハット王は懇願するように早口で言い訳を並べ立てた。
仕方なくやらされたことなのだと、自分は加害者ではなく命令されてやむにやまれずやったのだと。必死に弁明を重ねる。
「そっか、お前の言い分はわかったよ。お前も大変だったんだな」
そしてリュージが初めて理解を示すような言葉を発したのを見て、
「おお、わかってくれたか! そうなのだ、あれは仕方なかったのだ。ワシとてやりたくなかったのだ!」
「そうか……それで?」
「だから命だけは助けてくれぬか。そうだ、なんならこの国も譲ろう、ワシは隠居する。今日この瞬間よりお前はこの国の王となって、好き勝手に振る舞えるのだ。どうだ、悪くない話だろう? だからどうか命だけは助けてくれぬか」
ライザハット王はここがチャンスとばかりに、王座を譲るという破格の条件まで提示し、言葉を尽くしてリュージを説得にかかった。
自分の命がかかっているので文字通り必死だった。
「そうだな……どうしようかな?」
「なにとぞ頼む……」
「ところで王さま、姉さんは皇子だけでなくライザハット王にも犯されたと言っていたんだがな?」
「な……え……?」
しかしリュージのその言葉に、矢継ぎ早で弁を弄していたライザハット王の口がピタリと止まった。
「帰ってきた姉さんは身も心もぼろぼろだったよ。股と尻からは誰の物とも知らない精液を大量にこぼしながら、顔も身体もそれはもう一辺の隙間もなく精液まみれでさ。街一番の器量よしと言われた自慢の姉さんは、見る影もなかった」
「あ……う……」
「そして姉さんはこう言ったんだ。皇子に犯し尽くされたあと、この国の王であるお前にも犯され、さらには側近の貴族どもに犯され、神父に犯され、最後は兵士どもに散々好き放題に輪姦されたと、死んだ目をしながら呟いてたんだけどな?」
「ぁ……あぁ……っ……」
「姉さんとお前で言い分がこうも違うのは、これは一体全体どういうことなんだろうな?」
「そ、それは……その……」
リュージに凄むように問われたライザハット王の口からは、もはや言葉らしい言葉は出てこなかった。
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