第2話 神明流の使い手
次にリュージは跳ね橋を引き上げていた鉄の鎖を斬りにかかった。
数本の太い鉄鎖を束ねた巨大な鎖も、神明流の前では絹糸と大差はない。
「神明流・皆伝奥義・一ノ型『ダルマ落とし』」
岩をも砕き斬る横薙ぎの一閃が、跳ね橋を釣り上げていた鎖を苦もなく断ち切ると、
ジャラジャラジャラジャラジャラ――ドゴォォォォォン!
跳ね上げ構造の滑車を鎖が派手にこする音がして、跳ね橋が轟音とともに下りた。
いや下りたというより、落ちたと言ったほうが正しいかもしれない。
どちらにせよ、2つ目の関門だった跳ね橋もリュージは簡単に攻略してみせた。
さらには、
「神明流・皆伝奥義・二ノ型『カワセミ』」
刀の切っ先に強烈な剣気を込めた一気の突きが、巨大な城門を吹き飛ばしてぶち破る。
巻き込まれた場内の兵士が何人も吹き飛び、やぐらの上にいた兵士が衝撃で落下する。
3つ目の障害も難なくクリアしたリュージはそこで後ろを振り返ると、水堀の向こうにいる青年リーダーに、さっさと来いと手招きをした。
リュージの人外の行動の前に、呆けていた青年リーダーはそれでハッと我に返った。
「みんな! 見ろ、道は開けた! 行くぞ!」
すぐに周囲に声をかけ、気勢をあげて下りた跳ね橋を渡りはじめる。
そして最初はわずかな集団だったそれは、すぐに人々の大津波となって一気に王宮内へとなだれ込んだ。
もちろん兵士たちは、それに応戦しようとする。
しかし圧倒的なまでの多勢の前にはいかに王宮を守る正規兵といえども、なすすべはありはしなかった。
加えて指揮官や部隊長といった指揮系統を既にリュージが殺して回っていたため、門を守っていた守備隊はすぐに持ちこたえられなくなった瓦解した。
そんな、城門が突破されて大騒ぎになっている王宮内をリュージは駆けていた。
目指すはこの国の王がいる王座の間だ。
見えてきた豪奢な扉を守る近衛騎士2人をこれまた瞬殺すると、リュージは扉を蹴り開けて王座の間へと乱入した。
玉座の間では宰相や大臣たち、この国の為政者たる10人の重鎮貴族たちが、!
といっても首謀者をギロチンにかけろだの、政治犯をどんどんと投獄しろといった、自らの失政を棚に上げた自分たちのことしか考えていない議論であったが。
そしてその一番奥にある王座に座った、ぶよぶよに太った醜い豚のような男がこの国の王ライザハットだった。
リュージはそこへ踏み込んだのだ。
「何者だキサマ!」
「下がれ下郎!」
「ここを王座の間と知っての狼藉か!」
「無礼者め、わきまえよ!」
この場を守る近衛兵が剣を抜き槍を向け、重鎮貴族たちが口々にリュージを非難する。
しかし、
「神明流・皆伝奥義・三ノ型『ツバメ返し』」
リュージの息をもつかせぬ連続の斬り返しで、彼らはまたたく間に死体の山と化した。
既にこの場で生き残っているのは、玉座に座るライザハット王ただ一人だけだった。
「全員殺したのか!? なんということを! こ、このようなことをしでかして、貴様はなにが望みなのだ……!?」
ライザハット王は完全に腰を抜かし、声を震わせながら言った。
突然目の前で凄惨な殺戮劇を見せられたのだから、それもまた仕方のないことだったが。
「王さま、今からあんたには俺の質問に答えてもらう。誠実に答えなければあんたもああなる」
「質問……だと……?」
「そうだ。7年前の夏、神聖ロマイナ帝国の皇子のどいつかがこの国に来た。そいつは誰だ?」
「7年前……? ロマイナの皇子……?」
「神聖ロマイナ帝国には20を超える皇子がいる。7年前にどいつが来たかと聞いてるんだ」
「す、すまぬ、だがあまりに昔のことでよく覚えていない――」
その言葉を最後まで言う前に、リュージの刀の先端がライザハット王の右目を突いて容赦なくえぐった。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 目が! ワシの目がぁっ! 痛い! 痛い痛い痛いイタイ!!」
ライザハット王が右目を抑えながら玉座から転がり落ちる。
そのままのたうち回って、痛い痛いと子供のように絶叫し泣きわめく。
「うるせえぞ静かにしろ。大の大人がこれくらいでぎゃーぎゃー泣きわめくんじゃねぇよ。右目が無くても左目がありゃ見えるだろ」
「な、なにを馬鹿なことを申すか! このワシの右目が、右目が――!」
「俺は静かにしろと言ったんだが? 右目だけじゃなくて、左目もなくしたいのか? それとも今すぐ死ぬか? なんなら選ばせてやるぜ?」
リュージが笑いながら刀を振り上げると、
「ひっ!? ぐっ、ぐぐっ……ひぐっ、うぐっ、ぐ……」
ライザハット王は必死に痛みをこらえながら押し黙った。
「やりゃできるじゃねえか。俺は素直なやつは嫌いじゃないぞ」
「た、頼む、どうか命だけは助けてくれ」
「それはお前の返答次第だな。もう一度聞くぞ、7年前の夏にここに来たのは神聖ロマイナ帝国の第何皇子だ? 死にたくなけりゃ、死ぬ気で思い出せ」
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