第3話 シナ内戦
有能な働き者は参謀にすべきである。彼らは一生懸命に働き素晴らしい作戦を考えてくれるだろう。
有能な怠け者は指揮官にすべきである。彼らは自分が楽をするために効率的に人を使うだろう
無能な怠け者は下級兵士か連絡将校にすべきである。引き金を引くことはできるし、伝書鳩の代わりぐらいはできるだろう。
無能な働き者は直ちに銃殺すべきである。彼らは害悪にしかならず味方にとって、最悪の敵であるからだ。
ゼークト組織論参照
「なぜ、秋津島に資金を投資しているのかね。我が国の方針は知っているはずだが」
軍服をまとった男性は、怒りが収まらぬらしく顔を真っ赤にして、相手に詰め寄る。いかつい体も併せて迫力は相当なものだ。並の士官など萎縮して何もしゃべれまい。
だが相対する銀髪の若い女性は、まるで人形のように整った美しい顔に、何の感情も浮かべることなく、コーヒーを口に運ぶ。
「民間企業が、法に則り、適切に資金を投資しし、投資された会社はそのお金でもって利益を得る。我が社は投資により配当若しくは株価の上昇という形でもって、その会社から利益を得る。そして我が社が利益を得ることによって、税金という形で合衆国も利益を得る。何か問題でも?」
詰め寄られた女性ターシャ・ティクレティウスは、そう答える。実際ターシャはそう思っていた。すべてがWinーWinの素晴らしい関係だ。長期的なビジネスとはかくあるべきなのだ。一方的な搾取では、焼き畑農業と一緒でいつかは崩壊する。
「屁理屈を・・・。では、なぜ今回の軍の依頼を断る。この会社にとって悪い話ではないはずだ」
ターシャは手元にある書類を一瞥して言う。
「閣下、例えスパム肉と言えど目の前にあれば食べることはできます。ですがどんなに美味しそうに描かれていても、絵にかいたステーキは食べられないのですよ」
契約の内容はかいつまむとこうだ。ZASは軍治顧問としてシナ国民党軍の教導を行う。幾つかの作戦に同行し、中華統一に協力する。その見返りとして合衆国が得られる利権の一部を永続的に受領するものとする。
成功したならこれほど美味し話はあるまい。但し、あくまで成功するならである。ターシャはこれが失敗に終わることを知っている。念のため調べたが、前世の史実通り、水漏れ、寝返りに加えて、強奪、強姦などやりたい放題である。もはや軍と呼べるのかどうかも怪しい。単なる夜盗の集団ではないか。大体経済的裏付けのない紙幣を大量に発行する段階で資本主義を冒涜しているとしか思えない。
これに肩入れする合衆国の政治家の正気を疑う。一度レッドパージを進言したほうが良いかも知れないとまで思う。
「大陸の大部分をはすでに支配下にあり、兵力差は4倍、わが軍の支援もある。圧倒的ではないか。あと一歩なのだ。後は綱紀粛正が多少できれば何の問題もないはずだ」
そう数の上では圧倒的である。しかし、目の前の将軍は、シナ国民党軍が潜在的な敵を、共産党の兵士を倒す以上に増やしていることを知らない。数の差はそのうちひっくり返るだろう。まあ、綱紀粛正だけなら手っ取り早い方法がある。
「では、手始めに夜盗と変わらない者たちを消してしまいましょう。潜在的共産党員も消えてちょうどいい。水道管はお返ししたでしょう」
「何を言っている・・・。」
「問題を起こす人がいるからいけないのです。ならばそのものを消してしまえば問題解決では無いですか。まあ、100万人死んでもあの国では誤差の範囲でしょう。これはオペです。腐った患部は切り落とすしかないのですよ」
さも当然といったように100万人を殺せという目の前の人物。将軍は今更ながらに得体のしれない化物を相手にしている恐怖を感じていた。
一方ターシャにとっては、統制の取れない軍隊など国家にとって病原菌そのものである。焼き尽くすことに何の通用も感じない。それににあの国では10万や20万人殺したところでニュースにもならない。だが流石に水道管を何発か使えば綱紀粛正のインパクトにはなるだろう。そのあと米軍が進駐すれば良い。それが嫌なら秋津島人を使えばいい。彼らは指揮官としては疑問をがあるところがあるが、兵士としては非常に優秀なのだから。それに秋津島に合衆国が肩入れすれば、現在ZASが投資している金額が何倍にもなるだろう。
「100万人が誤差の範囲だと・・・。貴様はそんなに人が死ぬのが好きなのか」
将軍は何とか声を絞り出して、目の前の化物に向かって言う。気分は魔王に立ち向かう勇者の様だ。
それを言われたターシャの方は、心外というほかない。共産党が勝てば桁が違う人間が死ぬのである。死人の数が統計によって数千万単位で違う国において100万の死者がどうだというのだろうか。
まあ、その中には善良な人物も含まれるだろう。だが、かつてのライヒとて悪人ばかりが殺されたわけではない。むしろ、生き残っていてくれた方が良いものがたくさんいた。もっとも、死んだほうが良いものは、連合軍の手を借りるまでもなく、ターシャ自らの手によって排除されていたのだが・・・。
「私は事実を述べているにすぎません。最も効率的な人的資源の使い方を提案しているにすぎません」
まったく、夜盗と変わらないものなど、死んで綱紀粛正の見せしめにするぐらいしか使い道がないではないか。
「ティクレティウスCEO。どうかそれぐらいにして、合衆国を助けては頂けませんか。確かに、あと一歩は思ったより大きいのかもしれません。ですがティクレティウスCEOならそれができるのではないですか」
それまで、いたのかと思われるほどまるで存在感のなかった男性が口を開く。実際先ほどターシャが言ったとおりにすれば目的は達成できるだろう。だが、世界大戦時と違い、現在はそれを達成する手段も大事なのだ。
「ジョン・ドゥ局長も無茶をおっしゃる。ですが、最低限シナ国民党を残すという条件なら引き受けられないこともありません」
「それで結構です」
ジョン・ドゥと呼ばれた男は、横の将軍に相談することもなくそう答える。
「それと政府内の共産党シンパのあぶり出しをお勧めしますよ」
「ご忠告痛みります」
そう言って、局長は頭を下げる。
「ジョン・ドゥ局長、何を勝手に決めている。そんな権限は貴様にはないはず・・・」
将軍は局長に詰め寄ろうとするが、その気迫に言葉が続かない。
局長は思う、やれやれ私の発する気迫など、目の前の化物と比べたらまるで猫だ。この将軍は自分が死を覚悟した、あの交渉の場面にいたら失禁して気を失っていたのではないか。
「では具体的に話を進めても」
そうしてティクレティウスCEOとジョン・ドゥ局長が交わした作戦は秋津島にシナ国民党に協力する集団を作り、教導し、もしシナ国民党が負けることがあれば、密航し台湾を拠点としてシナ国民党を保護するというもの。秋津島の人間を教導する段階で報酬が発生し、台湾まで撤退することになり、防衛に成功すれば追加報酬が支払われる。
「ふん、そちらこそ絵にかいたステーキだな。せいぜい小銭でも貰って喜んでいるのがこの会社にはお似合いだ」
将軍はそう捨て台詞を言うのがせいぜいだった。
二人が去った後、ターシャは秘書を呼び出す。
「ヴァイス部長を呼んでくれたまえ。海外出張任務だ。それとセレブリャーコフ君、悪いがコーヒーをもう一度入れなおしてくれないだろうか。全く、先ほどのコーヒーはあの頭の固い将軍のせいで泥水を飲んでいるようだった」
苦々しく、ターシャは秘書に愚痴る。全くどうせまずいのならインスタントでもよかった。
しばらくしてヴァイス部長が部屋に入ってくると、任務について話し合いが行われる。ヴァイス部長は細かい指示などしなくても適切に動ける、実に得難い人物だ。
数年後、シナ国民党は共産党に完全に敗北し、合衆国は今まで持っていた利権を含めて、中国大陸での利権をすべて失うことになる。シナ国民党を台湾へと撤退させ、かろうじてシナ民国を存続させたのは秋津島人を中心とする”白団”の活躍があったからこそであった。
この中国大陸での失策を期に、大規模な赤狩りが始まることになる。その中にはあの時ターシャに詰め寄った将軍の名前も含まれていた。
後書き
いかがでしたでしょうか。面白いと思っていただけたら嬉しいです。
また他にも、同じペンネームでオリジナルの小説を、カクヨム様と小説家になろう様、両方で書いていますので、是非読んでいただけたらと思います。
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