第41話:終わりに

〇終わりに


 ――ちょうど12年後――





 僕は社会人になっていた。


 あの大学生活は今でも鮮明に覚えている。


 それくらい、それ以降の記憶が曖昧だ。


 あの後、僕はメフィスの幻影を追って地に足がつかない生活を送っていた。風斗や琉音ともちょくちょく会うから、大学生活は苦ではなかった。


 ただ、大学を出てからは会わなかった。2人ともそれぞれの生活を送っているのだろうとぼんやりと思っていた。僕はそれでいいと思った。


 漠然と時間とともに街を進む僕は、昨日の雨でできた水たまりに映る晴天模様を見下ろすばかりだ。


「はぁ」


 休日で久しぶりに外に出たはいいものも何もする計画がなかった僕は、ため息替わりに本を開いてベンチに座った。





「信じられない信じられない信じられない」


 開いた本の向こうには、犬の尻尾のようなポニーテールの女性が、幸せなシワを口元に浮かべていた。


 信じられない。


「どうしてここに?」


 僕は本を落として目を見開いた。


「それがね、あんたを満足させることができなかったということで、満足させるまであんたと一緒にいるように言われたのよ。信じられる?こんなに時間が経ってから強制的にだよ?」


 彼女は相変わらず白いワンピースを着てプクーっとほっぺを膨らませる。背後では、膨らんだ白い風船が晴天の空に浮かんでいった。


 僕ははっきりと地面に足をつけて立ち上がった。


「二兎追うものは一兎も得ず。君の願いと僕の願いを両方得ることは難しいよ」


「あははは。そうだね。どうしようっか?」


「そうだな。とりあえず、君の話を聴こう。僕が満足する方法があるかもしれない」


「そうだね。でも、自信ないなー」


「満足しなかったら、それはそれでいいよ」


「あー、悪い顔しているー」


 僕は本を拾い、歩き始めた。


 横では、彼女がウサギのようにピョコピョコと歩いていた。

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本と兎の出会い すけだい @sukedai

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