第39話:第8章②あたしの願い事
「信じられない」
彼女は脳天から言った。
「そんなに信じられないか?」
「信じら得ないよ。あんたが悪魔であり、悪魔の契約をするためにあたしの前に現れたなんて」
興奮する彼女の前に冷静になった僕は、それもそうかと思った。
「それで、君はどうするの?」
「何が?」
「悪魔とわかったからには、仲良くするわけにはいかないだろ? 僕から離れていくのか?」
僕の前にきょとんとする女性に聞いた。
「んー、別に。このまま遊ぼうよ」
彼女はあっけらかんとしていた。
「どうしてだ?ほかの友達に嫌われても知らないぞ。悪魔なんかと仲良くしたら」
僕は当然の主張をした。
「あっははー、ほかの友達かー」
「そうだよ。僕なんか気にせず、遊んできなよ」
「んー。あたしには友達はいないんだ」
彼女は岩石のような苦々しい笑顔だった。
「……ごめん」
「あっははー。謝ることじゃないよー」
「でも、友達がいそうなものだけど」
「あたしね、結構不器用で、周りに合わせることが苦手なんだ」
彼女は人差し指同士を磁石のようにツンツンしていた。
「そうなのかな? 人間のことはわからないけどそうなんだ」
「それで友達がいないんだけど、そのことが親にバレたくないから、家に帰ったらいつも友達のところに遊びに行くと嘘言っているの。でも、だれも友達がいないから一人で公園で遊んでいるの」
人差し指同士をくるくる回していた。
「だから誰もいないのか」
「それでね、学校でも友達がいないから、休み時間が暇なの。だから、いつも図書室に行くの。そしたら、いきなり本からあなたが出てきたの。あたしはびっくりして急に閉じてしまったの。ごめんね」
「それは仕方ないよ」
「それでね、本を借りて放課後に一人で公園で本を開いたの。そしたら、なんか楽しくなって、そして、えへへ」
くっつけた指の向こうからは悪魔を浄化させるようなかわいい笑顔が見えた。
僕はドギマギした。視線を外した。
「まぁ、別にいいけど」
「別に良くないよ。せっかく仲良くなったんだから」
ぐいっときた。
近いな、この子。
「あんた、悪魔の契約をしないとダメなんでしょ?」
圧迫面接のように圧迫される距離感だった。
「そうだよ。それがどうした?」
僕は思わず後ろに。
「それなら、あたしが契約してあげる」
彼女は右手を胸においてドンッと言った。
「簡単に言うけど、どういうことかわかっているの?」
「わかんない」
即答する彼女に、僕は劣等生相手の苦笑いを持った。
「あのね、悪魔の契約をしたら、願いが叶う代わりに、自分の魂を悪魔に取られてしまうんだよ」
「でも、願いが叶うんでしょ?」
いや、そうなんだけど、そうじゃない。
「魂が取られるんだよ?」
「そうだね」
「そうだねって、意味が分かっているの?」
僕は難しい試験問題のように困惑した。
「わかるよ。それをしないと、あんたが怒られるんでしょ?」
いや、そうなんだけど、なんか違う。
「あのね、死んでしまうんだよ。それに、天国にはいけないんだよ。嫌だろ?」
「嫌だよ」
「じゃあ、なんで」
「あんたの手伝いをしたいから」
「だから、なんでだよ」
「あんたのことが好きだから」
……はい?
「何言っているの」
「あははー。なんか、こんなに気が合う人は初めてだよー。だからかなー。えへへー」
そうなの? え? そうなのっ?
「だからと言って、悪魔の契約は」
「あんた、最初は悪魔の契約をさせようとしたのに、もうさせようとしないなんて、意地悪ね」
「意地悪とかではなく、もう少し考えてだね」
アセアセと焦っている僕に、彼女はどっしりと一言。
「あたしは味方よ」
僕は額から汗が出てきた。
「味方って」
「だから、あんたが困ったら助ける。それだけ」
あっ、わかった。
コイツ、ばかなんだ。
「君がそれでいいのなら」
「じゃあ、願い事を言うよ」
僕は願い事に耳を集中させた。
「あんたと、いつまでも一緒にいれますように」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます