第37話:第7章⑦満足した

「なんか、さっきの真面目な感じがバカバカしくなってきたね」


「そうだな。僕たちには似合わないな」


「そうだね。もっと気楽にね。あたしたちには似合わないね」


「にしても、お前。似合わないことするなぁ。漫画の感想を聞くふりをして僕の恋愛観を聞き出そうとしていたんだろ?」


「あれ? バレてたの?」


 メフィスは目薬をさした直後のように目をぱちくりとする。


「今ね。なんかおかしいなぁーっと思っていたけど、お前がもとからおかしかったから気にならなかった。でも、今冷静に考えたら似合わないことしているなぁーって」


「あー、あたしのこと馬鹿にした! イーっだ」


 メフィスは子供っぽく歯をホワイト板チョコのように前面に出し、頬にほおばった。


 僕は、幼い時に戻った気分だ。


 幼い時?


「にしても、さっきの引っ張り合いの時にも思ったけど、お前、僕をなんだと思っているんだ? 腕を引っ張ることをせず、代わりにダイブしてくるなんて」


「いいじゃない別に。喧嘩を止めるためにはあれが一番なの」


「そうか? でも、時代劇を思い出したよ。子供を引っ張り合う本物の親と偽物の親の話」


「あれでしょ? 本物の親は子供をかわいそうになって手を離す話」


「知っているのか? お前、本当に悪魔か?」


「あたしだって、人間のこと色々と勉強しているもん」


 えっへんと鼻を高くしようとする自慢げな顔はおそ松くんに出てきそうだった。


「それで、お前は僕のことをどう思うんだ?」


「え? 何が」


「何がじゃないだろ。お前が僕のことを好きかどうか聞いていない」


「ええー。言わないといけないのー」


 メフィスは顔を夕焼けのようにした。


「そりゃそうだよ。僕だって、振られるなら早いほうがいい」


「……その言い方、意地悪」


「意地悪で結構。はやく」


 僕は自信満々に言った。


 メフィスは、少し不安げに、でも自信を持って僕を見た。


「あたしも好きです」


 その言葉を聞いて僕は満足した。


 空からは光が差し、僕たちを照らしてくれた。僕は肩の荷が降りたのか、少し視界がぼやけた。目の前にいるはずのメフィスがはっきりと見えないくらいぼやけていた。それは、光も関係しているかも知れない。


 とりあえず僕は、手で目をぐしぐしとこすった。ぼやけて見える膜を削し取り、メフィスの赤い顔をもう一度みようと目を開けた。





 ――


 メフィスはいなかった。


 ――





 僕は呆然として、再び目をこすった。そして、再び目を開いた。


 ――


 メフィスはいなかった。


 ――





 僕は何回も目をこすり目を開いた。


 ――


 ……





 僕は不鮮明になる意識の中、昔の記憶が鮮明になった。


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