第32話:第7章②一目惚れ
「何その下手な話し方」
風斗は冷水のように冷たい瞳で凍える吹雪みたいな声だった。
僕は冬のように寒かった。
「下手な話し方といいますと?」
「どうせあれでしょ?私と琉音とのことでしょ?昨日のイザコザがあってからの今日の別々の登校で気を使ったんでしょ?わかるわよ、それくらい」
流れる水のようにスラスラと話す。
僕は流されるように頷いた。
と、流れをせき止めるように琉音は僕の服を引っ張った。
「――昨日のことはごめん。でも、私は譲れない」
あっ、宣誓布告だ。
時代が時代ならラッパか法螺貝が鳴っていた。
「あら?どういうこと?」
声の流れが強くなった。
「――君と好きな人がいっしょになった。でも、わたしも好きなの」
これが修羅場か。意外と冷静に見れた。いや他人事じゃないぞ、と他人事のように見ている自分が見える。
「そう?バレていたのね?誰にも言っていないけどどうしてかしら?」
え?メフィスに言っていないの?
「――メフィスさんに聞いたわ」
そうだそうだ。メフィスは言っていた。僕はそれでなくても知っていたが。
皆の目線の流れはメフィスの方に氾濫していた。
「ご、ご、ごめんなさい」
メフィスは溺れているようにアップアップしていた。
「実は、風斗さんの独り言を聞いてしまったの。それで、それで」
「いいのよ、メフィスさん。謝らないで」
風斗は小さな子供をあやすように言った。
「それよりもあなたよ、琉音さん。そういうふうに服を掴んでくっつくのは、私に対してのあてつけかしら?」
「――あてつけかはわからない。でも、渡したくない」
「それをあてつけというのよ」
冷戦。僕が生まれる前に終わった冷戦。
冷静な2人の女性がキューバ危機のようにバチバチと火花を散らしている。
よりによって、僕みたいなやつをめぐって。蓼食う虫も好きずき。
「あなた、こんな人のどこが好きなの?」
「――一目惚れ。君は?」
「奇遇ね、わたしも一目惚れよ」
こんな人、って。
一目惚れ、って。
こんなそっけない言い合いって。
「どうやら、力づくじゃないとダメなようね」
「――そうね」
そう言って本とケータイをそれぞれが取り出し、天使とハンターを召喚した。
いや、力づくじゃなくても話し合えばいいじゃん。
いや、わざわざ契約主を出さなくてもいいじゃん。
いや、悪魔退治のために使えよ、どこで使っているんだ。
2人からは突風のようなものが巻き起こった。いやいやいや、能力者同士の対決ですか?ドラゴンボールですか?漫画の世界ですか。
巨人に押されるように草葉が折れそうになりながらしねっていた。僕はその流れに逆らうことができずに飛びそうになっている中、メフィスが抑えてくれた。
「大丈夫。私がついているから」
ありがたい。ありがたいけど、その力強く僕の頭を押さえつけている手をどけてくれ。地面に顔が杭のようにめり込んで、息ができない。そして、何が起きているのかわからない。
意識が飛んだ。
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