第30話:第6章⑤お前もか、再び
僕は図書館の机にうなだれていた。
「どうしたのよ。講義にも出ずに」
僕の右横に座るメフィスは子猫のように見つめてきた。
「どうしたもこうしたもないよ。僕は普段から講義に出ないことはいくらでもあるさ」
だるいながらもナマコのように姿勢を正した。
「そうじゃなくって、どうして元気ないの?」
人懐っこい目で見てくるメフィスを僕は手で払った。しかし、その手をかいくぐって顔を近づけてきた。
「ねぇねぇねぇ。何で何で何で?お姉さんが聞いてあげるよー」
妖艶な演技をしているのだろうが、ただのおマセなガキんちょの悪ふざけにしか見えなかった。僕はその近づく顔を手で抑えた。
「どこで覚えた?その言い方」
「ぶファへはほふぁ」
僕に口を抑えられたメフィスは溺れた人のように手を無造作にバタバタとさせていた。さすがに悪いと思って、手を離した。メフィスは顔を机に強打した。
僕は手が唾液でべちょべちょになっていた。
「うわぁー。べっちゃべちゃ」
「信じられない信じられない信じられない!いきなり手を離すなんて。人の唾液のことをいうなんて。あんたなんか信じられない」
「いや、これは不可抗力というもので」
「信じられない信じられない信じられない!自分のミスを認めないなんて。謝らないなんて。ほんと信じられない」
「いや、ほんとごめん」
「信じられない信じられない信じられない!人に言われて謝るなんて。人の心がないなんて。信じられない」
そう言って捲し上げる姿を見て、本来は心配すべきかもしれないが、僕は逆に安心した。今日のメフィスはどこかいつもと違って元気がなかった。いつもと同じ元気なメフィスが戻ってきた。
「……何見ているのよ?」
「いや、元気だなぁーと思って」
「何言っているのよ」
メフィスは顔を紅潮させて息が上がっていた。おそらく、元気な言動が原因だろう。
「元気なのが一番だよ」
「……そんなことより、あんたどうするの?あの2人のこと?どうせ元気がなかったのはあの2人のことなんでしょ?」
「わかるか?」
「分かるに決まっているでしょ。あんた、あたしを何だと思っているのよ」
「悪魔だろ?元だけど」
「そうよ、悪魔よ。でも、その前に女の子よ?あの2人の気持ちを無下にしたらあたしが怒るわよ」
再びグイーっと顔を近づけたメフィスは真顔だった。僕は今回は抵抗することができなかった。その目はブラックホールのように僕を引きつけてきた。
と、急にブラックホールが消滅した。メフィスは目を細めて、天使のように微笑んできた。
「あんたがどちらを選んでも、あたしは味方よ。だって、契約関係じゃない」
そう言うとメフィスは小走りして霧のように消えていった。
僕は顔が熱くなった。おそらく考えすぎからの知恵熱か、図書館が暑かったからかだろう。
僕は今日はこれまでだとばかりに、帰る準備をした。そうだ、メフィスを呼びに行かなくては。
僕はメフィスが消えた方向に進んだ。そこにはメフィスがいなかった。
「どこに行ったんだ?」
僕は地下から1階に上がったが、そこにもいなかった。霧の深い森の中に迷い込んだ気分だった。
「どこまで行ったんだ?」
僕は3階まで上がった。すると、とある人影がない本棚の向こう側で窓から外を見ている姿を発見した。霧を抜けたようである。
僕は本棚沿いに進み隠れているメフィスに近づいた。
「……そうだよね」
声が聞こえてきた。メフィスの独り言のようだ。
「あたし、悪魔だもんね。だから、どんなに好きでも結ばれることなんか無理だもんね。だから、2人の応援するしかないもんね」
メフィスの頬から光るものが流れた。
僕は本棚の影で止まっていた。
僕の頭の中に霧が立ち込めた。
お前もか……
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