第27話:第6章②磁石で言うと

「でも、どうして風斗はオシャレを?」


 僕は2日前を思い出しながら言った。


「そんなこと……知らないよ」


 最初は勢いのまま強く言おうとしたメフィスは、途中から弱く話した。だからお前は、塩をかけられた青菜か?


 でも、僕はそんなメフィスにはあまり気にせず、昨日の風斗を思い出していた。昨日のおかしいところ、それは2日前のことが理由か? 好きな人と話をしたいのに僕が無下に扱ったから、それであんなことになっていたのか? 少女心をわかっていない僕が知らないうちに風斗を傷つけてしまったから、泣いて怒ってだったのか?


 僕は手で額を拭った。そこには汗もなにもなかったので拭き掃除最後の乾拭きみたいに終わってしまったのだが、僕の思考は最後ではなかった。頭のなかは何一つ整理整頓できていない。


 今日の風斗がオシャレをしたということは、それは僕に対するアピールということだろうか? 服装からしてオシャレしないだろう人物がわざわざ僕のためにオシャレをして、それを僕にアピールしてきた。それにたいして僕は無頓着でいすぎた。彼女の心と努力を踏みにじったということだろう。乙女心は難しいと聞いていて頭では理解していたが、いざ実践となるとこんなに難しいのか。


「僕はどうしたらいい?」


 餅は餅屋、少女心は少女に聞くことにした。


「追いかけて。謝って。そして褒めて」


 メフィスは遅刻しかけている息子を急かせる母親のごとく急がせるように早口で言った。僕はその言葉のとおり急ぎ足になろうとした。


 が、体が止まった、急に。


 それは金縛りのごとく僕を止めた。僕は恐怖より急ぎ心が優先し、すぐに背後を見た。そこには幽霊のように感情なく僕の服を指で引っ張る琉音がいた。その目ははっきりと僕を見ていた。


「なにしているんだ?」


「――なにも」


 なにも、って服を引っ張っているじゃないか。


「離してくれ」


「――いや」


 そうか……ほぇ?いや?


「どうしていやなの?」


「――……」


 なんも喋らないのか! なんか言うと思っただろ。


 メフィスが口をあわわわわっと波打たせてながら2人の顔を灯台の光のよう適宜向けている間、僕と琉音は波止場での決闘前のように静かに見つめ合っていた。


 彼女が何も言わないから僕は考えた。どうしたらいいのだろう、と。彼女はいったい何を考えているのだろうか、と。


 そして、思い出した。昨日の告白を。


「もしかして、行って欲しくない、と」


「――……」


 琉音は相変わらず喋らなかった。しかし、その目には感情があった。炎のように熱く光るその感情は……


「でも、行かないと」


「――……」


 力強く服を引っ張られるのがわかった。その力は、炎が酸素を吸い込むようだった。琉音から感じる熱で僕は呼吸ができないくらい一杯一杯になった。


 琉音は離れない。


 風斗は離れる。


 メフィスは離れたり離れなかったり。


 磁石で言ったらどうなるのだろうか?


 僕がsだとすると、離れない琉音はnといったところか。離れる風斗はsである。となると、どっちつかずのメフィスはなんだろうか? 熱されたことによって磁力を失った何かといったところか。


 まぁ、磁石がどうとかといった現実逃避はどうでもいい。今の状況をどうすればいいのか? 風斗を追いかけなければならないのに琉音が邪魔をしている横でメフィスがあたふたしている状況をどうしたらいいのか?


 ……


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