第26話:第6章①モテ期


 さて、人生にはモテ期が三回あると聞いたが、どうしたことか。


 急に来たぞ、これがまた。


 今までモテたことがなかった僕には、胃もたれだ。





 僕は翌日になっても体がふるっ、震えていた。か、体中が痒い。どどどど、どうしとことか。


「何ボーッとしているの?」


 昨日と同じだった。曇り空の下、芝生の上でメフィスと2人で座る。僕はメフィスに聞いた。


「昨日のはなんだったんだ?」


 するとメフィスは不思議そうに言う。


「今頃どうしたの?楽しくなかったの?」


「楽しいわけがないだろ。大変だったんだぞ」


「そう、ごめん」


 急にメフィスは青菜に塩を撒かれたようにしおらしくなった。あれ? いつもの元気は?


「そ、そんな謝ることでもないないけど」


「そうなの?ごめん」


 元気がない。誰かに塩でもかけられたのか?


「だから、謝る必要はないよ」


「ごめん。ほんとうにごめん」


 えー?


「そういえば、あの後、風斗は?」


「え?あっははー。大丈夫だよ」


 空元気を急に出すあたり、大丈夫ではなかったらしい。3人中2人がアウトか。


「琉音は?」


「え? 何かあったの?」


 素の反応だった。なんか、大丈夫そうだ。3アウトではないらしい。


 それにしても、今日のメフィスと昨日の風斗、いったい何が起きているんだろうか?


 心なしか、空は少し暗かった


「やっほー!」


「――やっほー」


 感情ある無しの凸凹コンビが今日も2人で来た。既視感のある白Tシャツジーパン大量手提げカバン人間とスーツアンドスーツケース人間は、いつもどおりだった。……少しは代わり映えしろよ。


「どうかしら?」


 風斗はなぜか恥ずかしそうに僕の前で急に謎の質問をしてきた。どう? と言われても、どうしたらいいのだろうか?


「いつもと変わらず、元気だな」


「……そう?ありがと」


 そうそっけなく言うと風斗は足早に去っていった。いったい何なんだよ。変わった奴だな。そう思いながらメフィスの方を見ると、彼女はビッグバーガーでも食べるのではないかと思うくらい口をアングリと開けていた。


「ほんと信じられない信じられない信じられない!」


 羊の大群のように信じられないを連呼するメフィスは、僕の首を絞めてボーテンダーがカクテルをつくるごとくシェイクしてきた。


「な、な、な、なにが?」


 頭の中がシェイクしていくなか、僕から精一杯の言葉だった。


「何って、あんた気付かなかったの? 風斗さんの髪の毛にウェーブがかかっていて、化粧もネックレスもしていて、香水の匂いもしていたじゃない! オシャレしていたじゃない! どうして気づいてあげないの?」


 メフィスが珍しく本気で怒っていた。真っ赤になった顔を冷やすように目から涙を流していた。可愛い顔が台無しだ。


 揺れる記憶の中思い出そうとしても、さっきの風斗を思い出すことができない。いつもと同じ服でいつもと同じカバンの持ち方、それしか思い出せない。そう、僕にはいつもと同じにしか見えなかった。


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