第25話:第5章⑤お前もか
僕はそのまま目をつぶった。
今度こそは一人を楽しもうと思った。
空は見ないし、遠くの声も聞かない。
「――ちょっといい?」
はい、次はお前の番かい!
「琉音さん、君たちは順番に僕のところに来るお遊びでもしているのですか?」
僕の質問に琉音は。
「――そうよ」
と応えた。
そうなんかい!
「なんでそんなことを?」
「――これは言ってはダメなんだけど、メフィスさんが『話し相手がいない君に話しかけようゲーム』を開催したから」
言ってるじゃん!
『NARUTO』でイタチが木の葉の里に来たことを上忍がサスケに言ってしまったくらい、ほんとうに言ったらダメなやつじゃん。
落ち込むわ。
「それは面白そうなゲームだね」
「――面白くないわ」
こっちがだよ!
拒否不可能のデス・ゲームじゃないから、面白くないのなら参加するなよ。
忍者のように忍ぶ必要ないだろ。お前はハンターだろ。そういえば、いつになったらハンターハンターは連載再開するんだ?
「だったら、別に参加しなくてもいいんじゃないか? 参加しなかったからといって仲間はずれにするような奴らでもないだろ? 君がそういうことに関心があるのかは知らないけど。そうは思わないか?」
僕は隠し味のはちみつのごとく内心少し怒りながらも、神父のように穏やかな表情を務めた。そんな自分に対して、甘いなぁと思った。
「――ばーか」
辛い評価だった。てか、小学生か!
「何が馬鹿なんだ?」
「――今までの人生、こういう遊びに参加しなかったら、周りから嫌われた」
「そうだろな。僕もそうだった」
「――でも、あの2人はそういうことで嫌いにならない人たち」
「そうだろな。僕もそうだけど」
「――だから、わたしは無理に参加しなくてもいい」
「そうだろな。僕もそう言ったけど」
向こうは三段論法を使って形の上はわかりやすく話してくれたが、内容は全くわからなかった。見た目ばかり気にして美味しくない料理のようだ。何を言いたいの?
「――わかった?」
「わかったよ。わからないことだけが」
「――無知の知」
「古代ギリシャに行け!」
「――一緒に行きましょう」
「行けるか!」
なんだこいつ、未だにどんな人間かわからない。社会不適合者として大学に残るべき人間だろう。思考が日本からズレているのか、現代からズレているのか?
「――行ってくれないの?」
「冗談はやめてくれよ。君みたいに感情がない人間が言うと本気に聞こえてくるから怖い」
「――冗談よ」
「だろうね」
「――ジョーダン、ジョーダン、マイケルジョーダン」
懐かしい! 『アイムソーリー、ヒゲソーリー、小泉総理、小渕総理』との二大巨塔。
「さっきから、何を言いたいんだ?」
「――何を話したらいいのかわからなくて」
お前もか! 類は友を呼ぶ、か! いいことだけど!
「さっき、風斗にも言ったけど、無理して話すことはないよ」
さっきの反省を活かして、刺をヤスリで削るように少し優しい口調で言った。
「――風斗さん、さっき泣いていた」
ヤスリでとがれたトゲで刺された気分だ。
「そ、そうなのか?知らなかった」
「――何をしたの?」
琉音は感情がなかったので、怒っているのか心配しているのかなんなのかわからなかった。僕はただただ心臓を鉄のワイヤーで締め付けられただけだった。
「いや、まぁ、さっき君に言ったことと同じだよ。話すことがなければ無理して話す必要がない、と」
僕は整備された道路のようにまっすぐ答えた。
「――そう、なるほどね」
琉音は職人の独り言のように何かに納得したようだった。その何かを見透かしたかのような声が、僕の自信満々に整備された道路をグニャグニャに曲げ始めた。
「なにがなるほどなんだ?」
「――君は人の気持ちが分かっていない」
僕は人の気持ちがわからないことには自覚が有るが、こいつにだけは言われたくないという気持ちを自覚したのは初めてだ。
「君にいわれるとは思わなかったよ」
「――わたしも他人に言うとは思わなかったわ」
なんか少しイラっとしたが、川の流れのように聞き流した。
「では、風斗はなんで怒ったんだ?」
「――それは私からは言えない」
「それもそうか」
「――その代わり、私から言えることがあるけど、言ってもいい?」
「うん。なんだい?」
「――私、あなたのことが好き」
「うん。そうか」
「――じゃあ、これで」
「ああ」
そう言って琉音は静かに離れていった。歩く後ろ姿だけでも人相が出るんだなぁと思った。物静かな人は後ろ姿も物静かだ。それにしても、そんな琉音が僕のことを好きなのか……
僕はそう思いながら顔を両手で覆って、物静かに空を見上げた。顔の表面が変に痒くなったので、手のひらのヤスリでこすった。僕は体がわなわなと震えるのを感じた。
そうかそうか。
……
……お前もかー
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