第24話:第5章④再び一人タイム終了
僕は寝転がって本格的に空を眺めていた。
本格的に空を見て、本格的に久しぶりの一人を楽しもうと本腰を入れた。
遠くの声は聞こえない。
「ちょっといいか」
近くで声がした。一人タイム終了。僕が気になる女性を気にならない素振りをしながら横目で見るように見た。すると、そこには気になる女性がいた。
「今度は風斗さんか」
長い髪の毛が枝葉のようになびいていた。
「あら?相変わらず、さん付け?」
そこ、気になるところ?
冬風のように冷たい顔しやがって。
「別にいいじゃないか。出会って日も浅いんだし」
「メフィスさんだってそうでしょ?」
そうだけれども、メフィスは呼び捨てにしているけど、そこ気にする?
「じゃあ、風斗?」
「なに?」
春風のような笑顔で聞いてくるけど、用はないよ。お前が、さん付けを嫌がるから言い直しただけだよ。というか、やっぱりかわいいなお前。
「そっちから来たんだろ?そっちこそ何の用だ?」
「いや、まぁ、用ってほどのことではないけど……」
そんなことはないだろ。お前はメフィスと違ってなんの用もなく僕のところに来ない。それに、昨日のこともある。
そうだ、昨日のこともある。あれ? ということは、用っていうのは、もしかして。
「実は…その……あの……」
ちょっと、なんで体をモジモジさせているの? なんで顔を背けながらチョロチョロ僕の顔を見るの? なんで顔を赤くさせて涙目なの?
「実は……前から言いたかったことがあって……」
やーばいやばい。女性を意識したら唇が艷やかに見えるって本当なんだ! って、それは僕の問題だろー。
「実は……あなたが大学にとけ込めているのか心配なんだ」
そうか、僕が大学に……って、えぇ?!
「えぇ?び、びっくりした」
ある意味びっくりした。
「びっくりさせてすまない。しかし、あなたが大学にとけ込めていないのではないかと思って心配なんだ。というのも、あなたが大学でわたしたち以外と話しているところを見たことがないのだ」
たしかに僕には友達はいない。しかし、今それ?
「たしかに大学にはとけ込めていないと思う。でも、それだけが全てではないと思う。とけ込めなくても楽しめる方法はいくらでもある」
「例えば?」
問題児を捕まえた生徒指導の先生みたいな威圧を出すお方である。
「例えば、読書だ。読書は楽しいぞ。いろい……」
「嘘を付け」
キングクルールを倒したと思っていたらいきなり攻撃されたような気分だ。
「まだ話している途中だけど」
「わたしも本を読むから分かる。それは、ただの現実逃避だ。その行為をするということは、現状に不服を持っているということだ」
ぐっ、言い返せない!
「そ、そんなことは」
「そんなことはあるさ。そもそも、歴代の知識人というものも、色々とカッコつけているが……」
やめられない止まらないかっぱえびせんを彷彿とさせるくらいよく話す指導で有名だったと聞く野球の山内さんもこんな感じだったのだろうか?と思うくらい一方的に話された。
「……いということで、以上の理由であなたは間違っている」
「……そうです」
僕は立ちながら威圧してくる巨大木を見上げていた。
ひとしきり話し終えて髪をかきあげる姿は、虫を捉える食虫植物のようだった。
「分かればいいのよ。そうだ、ケータイ番号教えて」
「なんでそうなるんだよ?」
「? そんなの決まっているじゃない? いつでも連絡できるようによ」
そういうことではなく、今の文脈でケータイ電話の話題になるのがおかしいということだよ。でも、そのことを突っかかると、『はしめの一歩』の一歩に対する千堂のようにまた返り討ちにあいそうだからやめた。
「ちょっと待って」
僕はズボンのポケットからケータイを出した。
「ちょっと、スマホじゃない?」
「スマホ?」
ケータイに疎い僕が1ヶ月前に店員に言われるがままに買ったものがスマホといわれるものらしい。
「あなた、流行に興味あるの?」
「いや、そういうわけじゃなくて、この前ケータイが壊れたから買い換えたんだ」
「そう。それは良かったわ。そういうものに興味を持つタイプには見えないもの」
その一流ボクサーのような鋭い目には僕はどう見えているんだよ? たしかに、流行やケータイには興味がないけどさ。
「最近、スマホをみんな飼い始めているけど、みんな馬鹿ね」
「どうしてだ?」
「だって、そんなもの必要ないですもの。パソコンに専用の装置をつけて……」
あぁ、食虫植物に捕まった虫状態。いや、テンプシーロールに捕まった千堂状態か? とにかく、圧倒的な知識と話術に圧倒された。そういやコイツ、賢いんだった。
「……ということよ、わかった?」
「……分かりました」
捕食かノックアウトかなんなのか。僕は高校時代の賢い友達を思い出していた。彼らもよくわからなかったなぁ、と考える僕の頭のなかはお花畑だった。
「良かったわ。それから、1ドル何円か知っている?」
「何の話しだよ!」
僕はいよいよお花畑に迷い込んだ。
「別にいいでしょ? 話すことが思いつかなかったんだから」
では、なぜ話す?
お前は見合いで趣味を聞くベタな人間か!
「話すことがないのだったら、別に無理して話さなくてもいいじゃないか」
そういうと、風斗は150キロ投げれる投手が160キロ投げるような今までにないくらい不機嫌になって一言。
「そんなことを言わなくていいじゃない!!」
そう言って、目から出る涙を手で拭って走っていった。
えぇー。なんで泣いているの?
僕はお花畑で食虫植物にテンプシーロールをくらって倒れた気分だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます