第23話:第5章③何しに来たの?

 遠くから声が聞こえてきた。


 僕はそれを無視して、空を眺めていた。


 久しぶりの1人を楽しんでいた。


「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


 1人タイム終了。メフィスが店前の人形のようにポツンと立っていた。


「どうした?迷子か?」


「違うやい」


 そう言いながら、ドスンと横に座った。


「女性ならもう少しおしとやかに座ったら?」


「あたしは悪魔だよ」


 タコの置物みたいに誇張した膨れ方をしているが、お前は人間になったんだよ。忘れるな。


「その悪魔さまがどうしてここに?」


「あのね、聞きたいことがあるの」


「漫画のことか?」


「どうしてそれを!」


「それしか聞いてこねぇじゃねぇか!」


 とぼけているのか本気なのか、よくわからない。


 すると、メフィスは頭を小突いてテへへのポーズをとった。


 こいつ、わざとか。


「それで、何の漫画だ?」


「実はね、自己主張が苦手な女の子がいるの。その子は自分が何を考えているのかもわからなくて、ただ忠実に任務を全うしているの。でも、ある男の子との出会いを通して自分で物事を考えるようになるの。でも、任務を全うするためには自己主張したらダメなの。どうなると思う?」


 なんか身近にそういう人がいるような……


「よくある展開だと、その任務を無視して自分の意見を押し通した結果、もといた組織から追われるようになるが、男の子と協力して助かるはずだ。でも、場合によっては死んでしまったり、自分を押し殺してしまう場合もあるけどね」


「すっごーい!漫画博士だね」


 もっとまともな博士になりたいものだ。


 僕は手のひらに額を乗せて悩ませた。


「それで、他には?それだけでここに来たわけではないだろ?」


「え?」


「え?」


 まさか、こいつ……


「そーれだけじゃーなーいからーねー」


「その喋り方はなんだよ」


 ギョロ目で汗を流しながら尖らせた唇をあさっての方に向けていたメフィスを見て、僕はこいつと契約しかけたことが恥ずかしくなった。てか、こいつはこんな言動で恥ずかしくないのか?


「それだけじゃないからね」


「じゃあ、なんだよ」


「あれだよ、あれ」


「だからなんだよ」


「あれ……あれ……、……」


 途中から声が出なくなり、水槽の魚もびっくりの口パクスピード。


 笑顔で口だけ俊敏に動く顔面変化はドナルドダックのごとし。


 やつこそが、生粋のエンターテイナーだ。


「おい」


 心なしかメフィスとの距離が遠くなったような気がした。


 遠近法で遠くなったように見えるだけか?


 いや、メフィスと距離があることに心あり。


「じゃあねー」


 女性陣のところに駆けていった。


「おーい」


 いやもう、何しに来たの?


 とんだ風来坊だよ。


 浅草まで行けよ。

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