第22話:第5章②あいつの考えることはわからない

「アニメの影響を受けるタイプか?」


「――最近はそうしている」


「最近?なんで最近そうしているの?」


「――人の気持ちを知るため」


「人の気持ち?」


「――人の気持ちがわからないの」


 前から思っていたけど、お前はアニメの世界のキャラか。『エヴァンゲリオン』や『涼宮ハルヒの憂鬱』でお腹いっぱいだぞ、そのキャラは。


「アニメを見て、人の気持ちがわかったか?」


「――少しは」


「では、今はどういう気持ちだ?」


「――わからない」


「僕の気持ちは?」


「――わからない」


「……kアニメーションの事実上の処女作は?」


「『フルメタル・パニックふもっふ』」


 即答かよ。


 てか、フルメタル・パニックの男主人公くらい人の気持ちわかってねぇじゃん。


「まぁ、人の気持ちは勉強中として、君、声の大きさは普通になっているね」


「――君がそう言ったから」


「僕が言ったから声を大きくしてくれたの?」


「――そうよ」


 それはうれしいものである。


「ありがとう」


「――それは本心ね」


 お前はエスパーか。それとも、勉強の賜物か?


 でも、それよりも気になったことがあった。


「でも、なんで?今までも多分言われてきたでしょ?それでも直さなかったんでしょ?」


「――今までも言われた」


「じゃあ、なんで僕が言ったから直したの?」


「――君に言われたから」


「でも、他の人が言っても直さなかったんでしょ?」


「――直さなかった」


「じゃあ、なんで僕が言ったら直したの?」


「――君が言ったから」


 おーい、堂々巡りきたー。あと、今頃気づいたけど、君呼びなんだ。


 にしても、こいつは表情一つ変えずに淡々と話すから、何を考えているのかわからない。普通だったら目や口や喉が動くものだが、まったくない。


「――私の顔に何かついている?」


「えっ?」


 僕は知らないうちに彼女の顔にプールに顔を付けるくらい近づいていた。彼女の目は深海のように深かった。


「ご、ごめん」


 僕が遠ざかって視界がぶれたからだろうか? 彼女の表情が波打ったように見えた。


「――何か付いていた?」


「え? いや、何もついていなかったよ」


「――そう、それは残念」


 そう言いながら猫のようにほっぺたをさする彼女を見て、何が残念かわからなかったが、僕は浮き輪がないと溺れそうなくらい思考が溺れていた。


「とりあえず、僕が言ったから直したということでいいの?」


「――そう」


「なんか、風斗も僕の言うこと聞いて悪魔退治をやめてくれたんだけど、みんなやさしいんだね」


「――それは知らない」


 そうか、それは知らないか。たしかにほかの人の気持ちはわからないか。


 でも、琉音がやさしいことはわかった。


「じゃあ、そのテンポ遅く話すのを直してくれないか?」


「――それは無理」


 さっきできただろ!


「どうして?やればできるだろ?」


「――できないものはできない」


「でも……」


 琉音は急に立ち上がり、2人の漫画談義のところに背筋を伸ばして向かっていった。なんかもう、僕とは生きる世界が違うと言いたげな後ろ姿だった。子供は親の背中を見て育つというが、小さい時にあんな背中を見たら僕もああいう風に育つのだろうか? 常に重力で体が重い僕には想像ができない。


 にしても、急にどうしたのだろうか?


 あいつの考えることはわからない。

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