第20話:第4章④風斗の独り言
図書館に来たわけだが、さっそく約束の場所と違うところに行った。地下に行く階段の手前に、新聞コーナーがあったので、そこで新聞を読むことにした。
僕は大学に来たら新聞を主要4誌全てに目を通すようにしている。朝日・産経・毎日・読売(五十音順)を見るようにしている。これも、大学に入ってからの習慣で、高校までは新聞なんか全く読んでこなかった。その反動で読んでいる。
新聞をそんなに読むのは大変だと思うが、やってみたら意外とできるものである。1つ目は1時間かかる。しかし、2つ目になると、同じ内容のニュースは流し読みになるので読み終わるのが早くなる。だいたい半分の30分で読める。3つ目になるとさらに半分の15分。4つ目はさらに半分の7分30秒。合計1時間52分30秒。カップ麺37個分+誤差の時間である。そんなものである。
また、読む新聞によって同じニュースでも価値観が逆の時がある。出版社によって思想が違うんだなぁと思った。
そういう違いに楽しむのは最初だけで、続けていくと新鮮でなくなっていく。そうなっていくと、他の新聞を見ていこうとなるのだが、日経はよくわからないし、ニューヨーク・タイムズも読むのがだるい。ましてや、読めない中国語やフランス語などの新聞はもっと無理だ。
ということで、最近は過去の新聞を漁ることにハマっている。スポーツ欄で野球を見ている。落合博満現役引退、中日に落合監督が誕生、中日優勝翌年の森野・ブランコ・和田のクリーンアップ。色々とあったものだ。
そういうふうに過去の出来事を知ることも楽しいものである。過去のことか。そういえば、風斗の過去のことを知ったんだな。あいつも色々とあったんだな。といっても、新聞の記事にもならない内容だな。そう考えると、新聞の記事はすごく重要な内容ばかり載っているのか。そういうつもりで読んだらいいのか。そして、それよりも大した内容でない自分の人生を考えると、漫画の主人公にはなれないなぁと思った。……いやいや、あいつらの思考が移ってしまった。
「あっ!」
僕は思い出した。そうだ、メフィスと待ち合わせしていたんだ。
僕はアニメのオープニング映像にあるような無駄に躍動感がある階段の降り方をして、地下の待ち合わせ場所に向かった。
メフィスと出会った場所近くには、いなかった。約束した場所にいないというアニメの展開のようなできごとだ。……まぁ、大げさか。
ただ単に、まだアニメ談義をしているだけだろう。さっきのアニメの暴力シーンのように殴られたところに戻るか。
僕は図書館を出て先ほどの踊り場に戻った。
メフィスたちはいなかった。
僕は一応の罪悪感から走ってきたが、無駄にカロリーを消費したようだ。
「どこいったんだ?」
僕は息を軽くあげながら周りを見た。カップルらしき人が数組いるだけで、人は少なかった。僕は図書館に戻ることを考えた。
さて、と一歩踏み出した時に、靴ひもが解けていたことに気づいた。僕はその場に屈んで靴ひもを結ぼうとした。
と、そこに聞いたことのある声が聞こえた。
結ぶのをやめ、声の方向である曲がり角の死角を覗き込んだ。そこには風斗が壁に向かって独り言をつぶやいていた。
(おっ、ちょうどいいところに)
そう思って靴ひもを結び直そうとした。
「あーあ、なんであんな人を好きになってしまったんだろう。悪魔と契約するようなやつと」
僕の体は紐で結ばれたかのように硬直した。
外では冷たい雨が降っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます