第19話:第4章③風斗の悩み
「真面目……じゃないわ」
「いや、真面目だろ。どう見ても」
「真面目だったら、こんなところにいないわ」
風斗はか弱い女性が防衛反応を働かせたように、左肘を右手で抱えていた。
「どういうことだ?」
「……あまりこんなことは言いたくないけど、わたしはここの大学がイヤなの」
「……どうして」
「わたしはr高校出身なの」
え? めっちゃ進学校だ。
「私の高校の時の友達はみんなk大学に行ったわ。いや、t大学やw大学にも行ったわね。とりあえず、こんなしょぼい大学に来ているのは私ぐらいよ。でも、しかたないわ。だって、わたし勉強をサボったんだもの。どんなに勉強しても周りの人達に勝てない、どんどん成績が下がる一方だったの。わたしは絶望したわ。ちなみに、中学からの中高一貫校で6年間そうだったわ。それで周りが性格が悪かったらまだ良かったんだけど。だって、勉強できない代わりにいい人を目指せばいいのだから。でも困ったことに、勉強出来る人に限って性格がいいの。ドラマとかで意地の悪い優等生とかいるでしょ?あんな人はいないわ。むしろ、中途半端に勉強できる人たちがそうだったわ。ガリ勉してギリギリk大学に入る程度の人たちね。それでも、k大学に行くくらいだから賢いわ。でも、ほんとうに賢い人たちはそんなんじゃなかったわ。いつ勉強しているの?と思うくらい勉強しているところを見なかったわ。でも、すっごく賢かったわ。そんな人たちと一緒にいることはすごく嬉しかったけど、すごく辛かったわ」
僕は圧倒されていた。僕も地元の進学校で似た境遇だが、レベルが違った。
「わたしは高校では勉強をしなかったの。いわゆる現実逃避ね。世の中、才能が全てよ。それでわたしは自堕落な生活を送ったわ。アニメや漫画やライトノベルにはまったの。色々とイベントにも行ったわ。テスト前日にもほとんど勉強しなかったわ。ずーっと小説を書いていたわ。ライトノベルね。現実逃避で書きまくったわ。おかげで、国語の成績が上がったわ。ねえ、知ってる?国語の成績がいい人は他の成績も上がりやすいという話を?実際そうだったわ。小説を書き始めてから、少し成績が上がったわ。でも、ほんとうに少しだけよ。本気のレベルの人から見たら、バッタかイナゴかの違いくらいどうでもいいものよ。あっ、ここで、昆虫博士はいないものとしてね、便宜上だから。わたしは小説を書き続けたわ。でも、どこに何作投稿しても全くダメ。そして思ったの、わたしはこっち側の人間でもない、と」
僕は途中からよくわからなかった。なんか、高校の時のめっちゃ賢い友達を思い出した。数学コンテストとかよくわからなかったなぁ。
「よく考えたら、当たり前よね。k大学には毎年何百人もの人が入るのに、小説家になる人はほんのひと握りだ。小説家になる方が難しいに決まっている。いや、そもそもわたしは小説家になりたかったのか?ただの勉強からの現実逃避をしていただけではないのか?なんで楽しんで書いていた小説で苦しまなければならないの?そう考えていくと、何が何だかわからないわ。それでわたしは、小説を書く事も投げ捨てたの。勉強もしない小説も書かない。自堕落にアニメ見たりするだけ。何の目的もなくブラブラ歩くだけ。それで、この大学に来たの。でも、何もかも嫌になったの。授業には出ていたけど、出ていただけ。話し相手はできたけど、話すだけ。何もないの。そんなあるとき、わたしは図書館であの本と出会ったの。そして、天使から使命を与えてもらったの。悪魔を退治せよ、と。それでわたし、今度はその使命で現実逃避しようとしているの。それだけ、だから、真面目じゃないの。不真面目よ」
僕はなんと言おうか迷った。下手なことは言えないぞ。でも、どうしよう。
……
「風斗さん、漫画読むのですか!」
急にメフィスが目を宝石のごとく光らせた。
「え、ええ、まぁ」
「では、あたしと漫画仲間になってください。おねがいします」
「漫画仲間?」
「はい、一緒に漫画を読んで、一緒に漫画の感想を言い合うんだよ。いや?」
「いやじゃないけど」
「じゃあ、決まりね。解決」
何が解決したんだ? というか、論点はそこではないだろ。
「――何を言っているの?」
琉音は幽霊のようにフラーっとメフィスに詰め寄った。そうだ、論点が違うことを教えてやれ。
「――漫画よりアニメのほうが面白い」
お前もか!
「なんでよ、漫画のほうが自分のペースで読めるじゃん」
「――アニメは音楽や声を楽しめます」
「えー、テレビつけるのめんどー」
「――これからの時代、ネットで見れる」
「そもそも、アニメ化されていない漫画あるしー」
「――漫画にないアニメもあります」
何の言い合いだよ。風斗の話はどこに行ったんだよ。
「ふふっ。ははははっ」
風斗は笑い始めた。
「2人とも、まだまだだな。アニメも漫画も両方楽しむことが本当の楽しみ方だ。私が本当の楽しみ方を教えてやる。あと、ライトノベルの方も教えてやる。だから、覚悟しておけよ」
そうして3人は仲良く話し始めた。
あれ? 解決?
僕は少し腑に落ちなかったが、仲良くオタク談義(?)をしている3人を見て幸せな気分になった。娘が3人とも元気に育って良かったわというお父さんの気分である。
にしても、話が濃すぎるからだろうか?何の話をしているのかわからなかった。
「おい、風斗」
風斗は僕の声を馬耳東風しなかった。
「なにかしら?」
「僕もこの大学は嫌いだ。でも、君に出会えたことは良かったと思っている。ありがとう。真面目な君も不真面目な君も、おしとやかな君も暴力的な君も、嫌いじゃないよ」
すると、風斗は僕を無視してオタク談義を再開した。
あれ? 嫌われた?
まぁいっか。風斗が元気になればそれで。
僕は席を立った。
図書館に向かおう。
「僕は図書館に向かうけど、メフィスはどうする?」
「あたしはここで話しとく」
「わかった。じゃあ、終わったら昨日の場所の近くに来てくれ。それか、僕がここに戻ってくるかもしれないけど」
「そんな感じでー」
「そんな適当でいいのか?道に迷っても……」
「あー風斗さん、髪の毛いじってばっかりで集中していないー」
もうこっちに興味ないのかい。僕は最愛の妻が子供を産んでから自分に興味を失った男性のように肩を落として歩いていた。
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