第17話:第4章①悪魔と人間
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「ねぇ、悪魔って人間と結婚できないのかなぁ?」
「ぶふぉ」
翌日の大学、講堂1階の踊り場でウォータークーラーから噴水のように出る水を飲んでいた僕は、メフィスの質問を聞いて口からスプリンクラーのように水を吐き出した。
「ぶぁっ、へぇぁ? 急にどうしたんだ?」
「昨日読んだ漫画で、そういうシーンがあったんだ。どうなるかワクワクドキドキだよ」
顔の目で両手をグーにして興奮している元悪魔を見て、僕は怒りをグーにして握り締めていた。
「漫画ではたまにあるよな、その設定。妖怪の人間の愛とか、宇宙人と人間との愛とか、天使と人間の愛とか。古くは七夕伝説の織姫と彦星からある話だね。まあ、男女の中には何が起こるかわからないってことだね」
「そんなの聞いてない」
ゴツン!
「いったー。なんで殴るのー?」
「なんかムカついたから」
頭を抱えながら泣きべそをかいているメフィスに、僕は右手の甲が痛いのを我慢しながらそっけなく応えた。殴り慣れていないから変なところ痛めた。
「二人共、仲がいいわね」
「――こんにちは」
そこに、風斗と琉音が現れた。二人共昨日と同じような服装だ。
「君たち、もう少し女性らしい服装にしないのか?」
「あら? 本当の美人は白ティーとジーパンが一番綺麗に見えるって言うじゃない」
「――クールビューティー」
お前たちに聞いた僕が馬鹿だった。僕は頭の中で頭を抱えた。
「それに、嫌いじゃないでしょ?薄着の女の子」
「――大人の魅力」
……嫌いじゃありません!
「まぁ、おしゃれのことがわからないだけだけど」
「――無知の知」
それが女性の言う言葉か? あと、琉音の言葉は意味不明すぎるからほっといてもいいですか?
「君たちがそれでいいのならそれでい……」
「おっひさー」
メフィスが割り込み乗車。
「昨日合ったばかりじゃないの」
「――おっひさー」
「1日会えないだけでも寂しいよ、あたしは」
「私たちは付き合いたてのカップルか」
「――アベックかもよ」
「てっへへー。アベックかもねー」
「カップルでもアベックでもどっちでもいいけど」
「――どっちもどっち」
あぁ、3対1。あぁ、疎外感。あぁ、神よ。
しかし、本当に仲がいいこと。昨日、敵同士だったことがヤスリで削られたかのようになかったようになっている。
いいことである
「そうだ。2人に聞きたいことがあるんだけど」
「なに?」
「――?」
嬉しそうに質問する側と質問される側、ほほえましいものである。
困ったことがあったら聞ける仲間はなかなかできないものである。とくに、メフィスみたいな得体にしれない元悪魔には逆立ちしながらコーラを飲むのと同じくらいむずかしいことである。そんな困難を克服した。
いいことである。
「悪魔と人間って、結婚できないのかなぁ?」
――鹿威しの音が聞こえそうな沈黙になった。
「……どういうことかな?」
風斗は釣り針に引っ掛けられたような引きつった笑顔で僕の方に向いた。
「いや、その、決して君が思っているようなことでは」
「じゃあ、なんでメフィスさんはこんなこと言うのかな?」
目が怖い目が怖い目が怖い。近づかないで近づかないで近づかないで。やめてやめて。
「いや、だから、説明したら分かるから」
「じゃあ、説明して」
「実はな……」
「男女の中には何が起こるかわからないってことだよ」
メフィスは悪気なく僕の発言のほんの一部を説明してくれた。そして、その一部分の発言はこの状況下では最悪に近いものだった。僕は溶けかけのアイスのような冷や汗を流した。
「――男は獣」
琉音の発言がピストルの合図になったのだろうか? 風斗はスタンディングスタートの構えから最高のスタートダッシュを決めた。そして、僕の顔面に右ストレートが決まった。それは上手に決まった。
「ぐふ」
僕は床に頭を打った。
「さいってい。昨日出会ったばかりの女の子にすぐに手を出すなんて、見損なったわ」
ああ、これが虫けらを見るような目か。こういうのが好みの人もいるらしいが、僕はお断りだ。
「だから、説明したら分かるって」
僕は仰向けになりながら腹筋が苦手な人くらい上体を起こし風斗を見上げた。
「これ以上の説明なんかいらないわよ。そんなものがなくったってわかるわよ!」
「そうなの? 漫画の続きがわかるの?」
「そうよ。漫画の続きがわか……漫画?!」
風斗は石像のように固まった。引きつった怒り面はひび割れたかのようにピクピクしていた。僕は美術展に来た客のようにじーっと観察した。
「……適度に運動して、適度にマンガを読むことが、健康の秘訣だと思うの」
僕は立ち上がり、親指たてグッドポーズを決めて発言している風斗の横を素通りした。
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