第15話:第3章④ハンター

「なになに?あんたもあたしを退治しようとしたの?」


「ハンターに聞いたのですか?天使以外にもそういう方がいるのですね?」


「……」


 ガールズトークしていた。


 だから、仲良くなるの早すぎじゃねぇ?


「ハンターにまで狙われるなんて、あたしも有名になったものだね」


「その場合、悪魔ハンターっと言われるのだろうか?」


「……」


 ハンターってなんだ? 悪魔や天使と同列のものではないだろ。


「へー、そうなんだー。すっごーい」


「そのことについて、もう少し詳しく説明できますか?」


「……」


 聞こえないんですけど。声が小さすぎなんですけど。


「あのー、3人で仲良くお話しているところすみませんが、もう少し声を大きくできないのでしょうか?」


 僕は3人目の謎の女性に頼んだ。


「――わかった」


 わぁー、消え入りそうな声。


「まず、名前は?」


「――琉音。兵部琉音」


 わぁー、消え入りそうな声。


「どうしてメフィスを狙ったの?」


「――……」


 わぁー、消え入る声。


 というか、話すテンポ遅いー。


 そう思っていると、スーツ姿の琉音は淡々とスーツケースをパチッパチッと開けた。お前は出張中のサラリーマンか!


 そのケースから土石流のごとく物が出てきた。ペットボトル・ノート・ブラジャー等が流れていた。てか、ブラジャーよ。


 その有象無象の中から白黒2色に区分されているケータイを取り出して、開いた。そこから、オーラのような光が出た。


 え? ケータイ? てか、この光、またこれか。どんなハンターが出てくるのか。ランボーのような迷彩服の兵士、007のようなスーツ姿のスパイ、石器を担いでマンモスを追いかける野蛮人、いろいろと想像した。


 ――


 牛が現れた。


「「ハンターだ!!」」


「――でしょ?」


「どこがだよ!」


 ドライブスルーくらい簡単にハンター認知する2人についていけなかった。


「――じゃあ、これで」


 琉音はケータイを閉じて牛を戻した。


「戻すのー!」


 メニューを見ないで注文する速さで戻した。


「――ハンターの存在を信じたでしょ?」


「……いや、そういう問題じゃないんだけど。気になるところ多すぎるんだけど」


 僕はメニューが多すぎて何を頼めばいいのかわからない気分だった。


 琉音はケータイを左手に持ったままスマートに立っていた。


「――何が気になるの?」


「まず、声が小さいことだ。聞こえない」


「――ハンターなるもの、いつ狙われるかわからないから、耳を大事にしないといけない」


 きちんと理由があったんかい! なんか、音を大事にする競技を漫画化したら強者が持ってそう設定だな。


「じゃあ、話すテンポが遅いのは?」


「――下手な発言をして相手を不快にさせたくないから、考えながら話しているため」


 真面目か!逆に不快だ。


「スーツ姿で、スーツケースなのは?」


「――正装」


 どゆこと?


「どうして正装しているの?」


「――家の外に出るときはきちんと正装しないと、人様に失礼」


「そうかもしれないけど、別にスーツじゃなくても。もっとラフな格好とか」


「――いつ命を狙われるかわからない」


「ハンター気質!」


 こいつ、マジモンのハンターか? というか、よく考えたらハンターってなんだ?


「――冗談」


「そんな無機質に淡々と話されたら、冗談かどうかわからないんだけど」


 僕は思った。こいつも先の2人と同様、変な奴だと。


「聞くことないのなら、あたしたちと遊ぼう」


「そうよ、あんな獣とは一緒にいたらだめよ」


「……」


「大事なこと聞いてないー!」


 浜辺の天使のように楽しそうに小走りで離れていく3人。1人は無表情で動きも硬いが、おそらく楽しいのだろう。そう見えた。


「あ、あのな……」


 僕は他にも聞きたいことがあったが、小さな子供のように3人が楽しそうに舞っているのを見ると、聞く気が失せた。


 まぁ、あいつらが仲良くしているのならそれでいいか。


 本ではなくケータイ仕様なこと、ハンターが牛であること、すぐに戻したこと、気になることはたくさんあるが、聞くのは後でいいだろう。


 あぁ、石を持ち上げて虫がいるのをキャッキャッ言っている。


 ははっ、川に落とそうとしてしあって、ろくろのようにグルグル回っている。


 ふっ、いい年した女性が揃って地べたに尻餅をついて泥まみれ。


「そういえば、昔はこんなことしてたなー」


 僕は1人離れて座り込みながら、童心に戻っていた。久しぶりに土をさすり、雑草を撫で、風に息を吹きかけた。

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