第14話:第3章③女性がまた1人
「大変ですね」
「お見苦しいところを見せてしまいました。普段は男性の前では見せないのですが……」
流石に女性が男性の前で鼻ちょうちんは恥ずかしかったのか、恥じらいながら視線を外した。
「いや、まあ、僕はもっと上手に鼻ちょうちんを膨らませるけどな」
僕も恥ずかしくなって、首を横に向けてファローのコトバを言った。そしたら、変な間ができて恥ずかしくなった。沈黙が終わるのを首を長くして待っていた。正面を向けなかった。よく考えたら、自分でも何を言っているのかがわからなかった。悪魔の影響を受けたことにしたい。でも、影響を受けるくらいも長い付き合いでもないから無理だ。というか、いつまで考えているんだ? 時間が経つほど、恥ずかしさが増してしまう。だれか、何か言ってー!
「……ふっ」
風斗の声。
「ふふふ。ふふふふふ」
僕は首を戻した。馬鹿にされているのかなと心臓を手で鷲掴みされているかのように痛めながら風斗を見ることにした。
風斗はお腹をかかえていた。
「……そんなにバカにしなくても」
「いやいや、すまない。バカにはしていないんだ」
目に貯まる池を吹きながら訂正してきた。
「涙出るくらい笑っているじゃねぇか」
「だ、だって、鼻ちょうちんの上手下手で対抗する人なんて、初めてだから。ふふふ」
震える風斗を見ながら、僕は頬を掻いた。
「わ、悪いかよ」
「ふふふっ、いいえ、ありがとう。優しいのね」
それは、いみじくも僕が風斗に言った褒め言葉と同じである。自分で言ったときには気付かなかったが、言われてみたら案外うれしいものである。勉強は教えたら先生の気持ちが分かるようになると聞くが、似たことだろう。僕は頬を掻きすぎて、爪の中に垢が溜まっていた。
僕たちは笑顔で見つめ合った。
「どぅぇきとぅぇる」
「「わーー!!」」
僕たちの間に元悪魔が介入した。
「2人とも、どぅぇきとぅぇる」
「できてねぇよ」
「どぅぇきとぅぇないの? つまんない」
「面白がるなよ。というか、どうして巻き舌?」
フェアリーテイルの青猫みたいなキャラクターを思い出した。
「ど、どぅーききてないよ」
「巻き舌がな!というか、真似しなくていいから巻き舌の」
僕のコトバを耳の遠い老人のように無視して、2人は巻き舌の練習を始めた。その様子は教師と生徒のように見えるかなと思いながら見ていたが、仲良し姉妹のように見えてきた。天使と悪魔のようには見えなかった。まあ、どっちも天使でも悪魔でもないけど。
「――……ホント、悪魔に肩入れするなんて、ダメじゃない」
「ホントホント……え?」
小さな声が聞こえるや否や、僕の横に爽やかな風が通った。
それは強い旋風となり、2人に向かった、いや、メフィスに向かった。
「危ない!」
「べへぇ」
風斗はメフィスを蹴飛ばした。
メフィスは地面に転がっていき、風斗は宙に舞った。
「風斗、大丈夫か?」
「ええ、受身はとったわ」
「ちょっとー、あたしの心配はー?」
地面に綺麗に倒れている風斗と顔がおしりの下にある倒れ方をしているメフィスとの間に、スーツ姿の者が……あれ? あいつ、昨日に図書館で出会ったカッター女。
その女性は息1つ乱さないスマートな再登場をした。今日の再登場した他の2人とは違い、ただならぬ雰囲気を醸し出していた。
そして、彼女は口を開けた。
「……」
――小さすぎて聞こえなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます