第12話:第3章①河川敷の話し合い
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大学近くの河川敷。
遠くにはr山がはっきりと見えており、そこから川が駅の方向に流れていた。
晴れているから景色は良かった。
「……というわけで、人間になったから、悪魔じゃない」
「それは屁理屈ではないのか?」
元悪魔と天使が草をツンツンさせている横で、僕と風斗は互いのことでツンツンしていた。僕と風斗がこいつらの代わりに言い合っている中、こいつらは何をしているんだ? というか、お前たち仲良くなってねえ?
「屁理屈かもしれないが、せめて、退治するのは人間に戻ってからにしてやってくれ」
「仮に人間になったことが本当だとしても、もともとは悪魔なんでしょ?弱っている今を狙うのが普通でしょ?」
おっしゃるとおりだ。山を背景に山のように憮然と立つ風斗に押し流されそうだ。
「そうだ。でも、ここは俺の顔に免じて許してやってくれ」
「……わかった」
「そうなんだ。たしかにこいつが悪魔に戻ってからでは遅いのかもしれない。今のうちに退治しておかないといけないかもしれない。でも、頼む。僕も出来るだけのことはするから……え?」
僕は言葉を途中でせき止めた。
「今、なんて?」
「わかった、と言ったんだ」
相変わらず憮然とした姿の風斗。川の流れのように揺れるのは風になびく長髪だけだ。
「……なんで?」
「なぜって、あなたが頼むからよ」
「いや、そうだけれども」
「じゃあ、退治してほしいの?」
「そうじゃないけど」
「じゃあ、なんなの?」
逆に聞かれた。逆流に飲み込まれたような気分だ。
「なんなのって言われても、なんで僕の言うことを聞いてくれたのかなぁ、って」
「そうねぇー、まぁ、困っているから助けてあげようかなぁ、って」
「はは、それはやさしいことで」
「それに」
それに?
「あなたには恩があるしね」
風斗は長い髪の毛をいじりながら応えた。
「恩? さっきのナンパから助けたことか? それなら別に気にしなくてもいいけど」
「ふふ? さっきのナンパから助けてくれてことは気にしなくてもいいの?」
風斗は女神のように優しく笑った。
「いや、退治を待ってくれるならそれに越したことはないけど……いや、でも、そこにそんなに恩を感じなくても……いや、でも、気にして欲しいというか……」
「ふふふ。そんなに焦らなくても」
お嬢様のように口を手で覆って笑う姿は吸い込まれるように美しかった。ああ、よく考えたら、この大学に入ってから1年、こういうふうに品のある人に出会ったことがなかった。乾いたスポンジに水が垂れるように心が満たされた。
「――おーい」
気づいたら、目の前に風斗の顔が。
「わあっ!」
「ええっ!」
僕が一歩下がると、磁石の反作用のごとく相手も一歩下がった。
「びっくりした」
「それはこっちのセリフよ」
「ごめんごめん。急に目の前に顔があったから」
「あなたがボーっとしているから心配になったのよ」
「はは、君、優しいんだね」
「え? ま、まぁね」
風斗は髪の毛を解きながら柔らかく応えた。否定するのではなく肯定するところは気にしないことにした。
「優しいよ。僕の心配はしてくれるし、頼みを聞いてくれるし」
「そんなことも、あるかも」
否定しないな。
「きっと、誰に対しても優しいんだね」
「そんなことないわ」
あっ、否定された。
「ち、違うの?」
「違うわよ。もし、自分のことを馬鹿にされたり酒をかけられてりしても我慢できるけど、友達をボコボコにした山賊は許さないわ」
「どこの海賊漫画だよ!」
「あら、漫画に詳しいの?」
「それぐらい分かるわ」
「そうか、では、ワンピースの正体もわかるのか?」
「それはわからんわ、いろんな意味で!」
「ねぇねぇ、見て見て」
声の方を見た。
元悪魔は天使とともに川原の石で阪神タイガースのロゴマークを作った。
「ワンピース」
「絶対違うー!」
僕は声を大にした。
「違うの?」
「違うだろ、どう考えても」
というか、お前はワンピースを知っているのか?
「そうよ、ワンピースの正体は……」
「そ、そうなの!」
「嘘を教えるな!」
風斗は元悪魔に耳打ちした。というか、仲良くなってねぇ?
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