第11話:第2章⑦ケンカ
「何も起きないぞ、こいつの時と違って」
「誰がこいつよ。メフィスだよ」
プンスカしている元悪魔をほっといて会話を続ける。
「どこを見ている。ここを見ろ」
風斗は自分の足元を指さした。
そこには、小さなものがモゾモゾと動いていた。
「これは?」
「ハムスターだ!」
元悪魔は抱きつこうとした。
が、よけられて勢いよく本棚に頭をぶつけていた。
「悪魔め、近づくなっちゅーねん」
「喋った?!」
「そりゃー、喋るっちゅーねん。わしは天使やっちゅーねん」
「天使なの?!」
「初めまして、天使の太郎っちゅーねん」
「普通すぎて逆に珍しい名前?!」
突っ込むところが多すぎる。
「ほお、まるで『とっとこハム太郎』だね」
「どうしてお前はそのキャラを知っているんだ」
本棚に突っ込んだことには突っ込まずに済んだのに、ここで元悪魔に突っ込んでしまった。でも、突っ込む元気はなかった。
「これでわかっただろ?あなたたちと同じだ。ただし、悪魔と天使の違いがあるがな」
「それはわかった。でも、どうしてこいつを狙う」
「こいつじゃない。メフィスだよ」
お前は黙っておけ。
「聖なるものが悪を裁くのは当然ではないか」
風斗は聖女のようなまっすぐな目だった。
「でも、天使はこのハム……この方で、君は違うだろ?」
「何を言っている? 天使とか関係なしに悪いものは倒さないと。契約とはそういうものだろ?」
契約とかあったなぁ、と遠くを見ている気分だった。
「君は願い事を?」
「いや、私はまだ契約をしていない。ただ、悪を倒すという業務提携を結んだだけだ。まあ、ボランティアだと思ってくれ」
ああ、優等生だ。
「あなたは願いを?」
「一応願ったが……」
言い終わる前に、ドラキュラのように冷血な顔が目の前に。
怖い怖い。
「あなた、悪魔の味方か?」
どすの入った声。血走った目。
マジで怖いって。
「み、味方じゃないです」
「でも、契約したんだろ?」
「いや、していないです」
「? ――どういうことだ?」
「いや、願い事はさせていただいたんですけど、まだ叶っていない段階というできぢょうか……なぁ」
「? ……何を願ったんだ?」
「……僕を満足させてくれ、かな」
「このスケベが!」
「違うんですー!」
思いっきり勢いの良いビンタを、バッターが頭部死球を避けるがごとく勢いよく仰け反ったら、横に居た元悪魔に直撃した。
「あなた、何をしようとしたんだ?!」
「別にやましいことは考えてなかったんですー」
「やかましい、この悪魔が!」
「それは僕ではありませーん」
元悪魔が打ち上げられたマグロのようにのびている横で、ビンタやグーパンチから逃げる逃げる。
「あなた、そんな人間だとは思わなかったぞ! もっと紳士的だとばかり」
「それはこっちもだ。ナンパされていた時に困っていたおしとやかな人間はどこに行ったんだ!」
「そ・れ・は、私だー!」
「そう見えねえって言っているんだよ!」
暴れている横で、天使は元悪魔をツンツンと触って生存確認している。その姿は、アラレちゃんがウンコを触るようだった。
「あの時の感謝の気持ち、返して」
「ああ、返して欲しいね、あの時のドキドキを」
「あら?私にドキドキしたの?ウブねえー」
「お前もウブだろ?あんな程度で困りやがって」
「困ってませんけどー?」
「だったら、僕に彼氏のふりさせないだろー?」
……
互いに言い合った。
……
「あなた、いい加減にしなさいー!」
「それは、お前だろー!」
パンチとそれを受け止める手が押し合いへし合いしていた。互いに歯ぎしりをし、浮いた血管から送り出す地の勢いから察するに、僕も向こうも引こうという気持ちはないらしい。それぞれの手が離れて自分に巻き込み、交差した。その時。
「図書館ではお静かに!」
司書の人に怒られた。
「「……はい」」
元悪魔の顔はツンツンの跡でボコボコになっていた。
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