#5 1話「え?勇者を何とかしろって?嫌です」Part5



一方、事務所の隣部屋。扉に倉庫と掲示されている室内では、複数台のモニター及びスピーカーを通して、事務所の会話を聞いている人影が三つ。




「姉あねさん方、そろそろ、オーナーの集中力が切れそうですぜ?ギルのじぃさんと言い争いになってまさぁ。どうします?」




操作パネルを弄りながら、ツンツンした白髪の男が、自分の真後ろでモニターを見ている二人に話しかけた。




「そうね~~。こういう時は~~。ハギねぇ~に~~。従うわ~~」




不可思議な話し方をするピンク長髪の女が、横で同じモニターを見ながら、透き通った青色に白が混じった短髪を弄っている女の方に顔を向けて答えた。




「はぁ~~。サクラ。私に振られても困る。あと、ソウ。サイト様のあれは、集中力が切れそうではない」




「え?じゃ~なんです?」「もう、きれてる」




ん?あ!なるほど。と何かを納得した仕草を見せるソウ。




「ハギねぇ~~。きれてるのは~~。分かるけど~~。そろそろ、助け船出さない~~?さすがに~~サイトにぃ~が、可哀想~~」




「む?あ、そうだな。そろそろ、本来のシナリオに戻すか。では、打ち合わせ通りに、私がサイト様に要件が~~と部屋をノックする。そのタイミングで、サイト様がこの会合をお開きする。お客様方が部屋を出て、階段を下りた先で、サクラがラガルガ様に‘‘誤って‘‘接触する。その際にラガルガ様の目の中にマーキングを設置。この流れで実行する。問題ないな?」




サクラが「はぁ~~い」と気が抜けた声を発する。




「ソウ。お前は、サクラにタイミングを伝えてやれ。階段下からは死角だからな」




ソウは「承知でっす!」と右腕を上げ、ハギに対して敬礼した。




「よし。では、実行に移すぞ」






コンコン。ノック音が扉の方から聞こえてくる。


サイトは、一旦、話を切り上げてから「入れ」と扉前に立っている部下に指示を出す。




すると、扉を開けて青白短髪メイドが入室した。サイトの元に近寄ったメイドは、右耳に顔を近づけて事情を話し出す。




内容を聞いたサイトは「う~~む」と唸り、腕組んだ。


・・・・演技である。




「サイト君?どうかしたか?」




ギルはメイドに一瞬、目を移しサイトに問いかけた。メイドは1Fの喫茶店「モナ・リザ」の店員と同じ格好をしているが、オーラ?雰囲気?が気になる。



昔、サイトが連れていた獣人に似ているが、目の前に立つメイドは人だ。獣人の特徴である耳や尾がない。他にも見分ける特徴があるが・・・・ここでは、追求しないでおこう。




「え~~とですね。支店でトラブルが起きたみたいでして。俺が対応しなきゃまずそうなのですよ」




何があったのかギル達に伝え、一泊置く。




「申し訳ないですが、この話は次回に持ち越しでもよろしいですか?」




サイトはギルとラガルガの顔を真っすぐと見てから、頭を下げた。




ほんの少し、時間が止まる。先に口を開いたのは、ラガルガだった。




「分かった。この話の続きは次回にしよう。あと、話す内容は最初の対象を何処にするか?ぐらいだからな。問題なかろう。ギル長官よろしいか?」




自分は納得したと、ラガルガがギルに賛同を求めた。




「えぇ。問題ないです。では、次回に」




ラガルガ、ギル、サイトが立ち上がり、それぞれ握手を交わす。


サイトは、メイドに3人を出口まで連れていくように指示を出した。3人はラガルガ、ギル、軍服女の順に事務所を出ていく。




廊下を歩き、階段を降りる靴音を聞こえ始めてすぐに・・・・。ガッシャン!と大きな破砕音が聞こえた。




サイトは急ぎ階段に向かった。階段下には食器が散らばり、ピンク長髪メイドが、階段を転げ落ちそうになっているのを、メイドの左腕を掴みラガルガが支えている。




「大丈夫か?」




メイドが体勢を建て直したところで、優しく声を掛ける。




「も、申し訳ございません!す、すぐに片付けます!はっ!お召し物は大丈夫でしょうか!?」




メイドはあたふたしながら、ラガルガの衣類に破片等付着していないか確認する。




「いや、大丈夫だ。こちらも、申し訳ない。前方不注意であった。君は大丈夫か?」




「だ、大丈夫です!お気遣いありがとうございます!」




メイドは深く頭を下げて、謝罪と感謝を伝えた。




「ラガルガさん。うちの従業員が申し訳ない。後で叱っときますので」


階段上から降りてきたサイトが、ラガルガに対して頭を下げた。




「いや、頭を下げることは無い。大したことは無いのだから。この子を叱るのは、店の方針であれば、俺が口を出すことでもないが、穏便に済ましてくれ。礼儀正しくて良い子だからな」




「分かりました。そのように致します。最後の最後に失礼しました」


再度、頭を下げたサイトの口には笑みがこぼれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る