#4 1話「え?勇者を何とかしろって?嫌です」 Part4

サイトは思う。少しは動揺してくれてもいいのだが・・・・・。


こう~、リアクションがないと寂しい・・・と。




ま、この複雑な心情は隅っこに追いやるとして。順調に話が進んでいる。あとは、三つ目の提案と終着点を間違えなければ、締結だ。




「このご時世に寛大なご判断。ありがとうございます。ラガルガさん」



「我が国の問題解決となるのであれば、大した内容ではない。それに・・だ。異種族に対する畏怖は、この先の未来を考えていく上で必ず障害となっていく。国が孤児院の存在を認めることによって


少しでも解消に向かっていければ、御の字だ」




なのほど、元々考えていたわけか。孤児院の民営化処置をするプランもどこかにあったのだろう。




「あなたのような、国の方向性について真剣に考えている方がいることは救われますね。連盟国家ではない国が亜人国家群と仲良くし、豊かになっている一方で、うちの国は何をやっているのだかと思っていました」



「戦争が終わって4年。もう、変わり始めてもいいだろうと俺は思う。だから、行動に移すのだ。お前・・・・いや、サイト君の提案は利用させて頂く。でも、問題なかろう?ここで少し話をしただけだが、方向性は会っているからな」



この二人、気が合うみたいだな。と横で会話を聞きながら思うギル。決して3年という短くはない彼の上司人生。私は・・・・彼とは合わなかったなと少し寂しい気分になる。




サイトとの出会いは軍学校の講師と生徒だった。どんな授業でも本気で取り組まず、たまにサボるので、講師の間では不真面目な生徒で通っていた。しかも、獣人の女の子を二人、常に侍らせている為、【獣愛好家】と他の生徒から距離を置かれていた。



本格的に関わることになったのは、軍に戻ってから。新設された対外諜報部隊【カオス】の責任者として任命された時だ。その部隊の立案者が当時、大尉階級であったサイト・サンソン。外見は、今と変わらず、端正な顔立ちで銀色の長髪を後頭部で結んでいる。



体型は痩せ過ぎず、太り過ぎない普通?と言ってもいいかもしれない。そんな、サイトとの再開後の初セリフが「お久しぶりですね!ギル先生!尻ぬぐい宜しくお願いします」



これには、私の軍人生は終わったかもしれないと思った。サイトと握手したが、ずっ~~と苦虫を噛み潰したような顔になっていた。だが、その後の人生は思っていたほど、悪くなかった。



サイトが創設した【カオス】は順調に運用され、軍内で重要部隊として位置付けられることとなる。その後、部隊は解散し、軍本部所属:情報連隊→情報部門特殊作戦機関→グリモア王国情報局〈ウーロン〉と


王国軍と肩を並べる巨大組織へと変化していった。



ちなみにサイトは、順に連隊長→情報部長→初代局長を務めた。ギルは連隊長補佐→執行役→新設された軍対外諜報機関〈シナプス〉の長官を務めている。ウーロンとシナプスは情報機関であるが、所属や思想が異なる為、対立することが多い。



ウーロンは情報収集によって得た情報を精査し、穏便な解決策を模索する。


シナプスは諜報活動によって得た情報を元に部隊を送り込み、短期間制圧を行う。



穏便派と過激派。同じ情報を得ても、対応手段が異なるので、常にぶつかる組織。したがって、今回の話は、うまく進まないと思っていたのだが・・・・・




「ギルさん?ギルさ~~~ん。聞いていましたか?」


「ん?すまない。ぼっとしていた。条件についてだったな」


昔の思い出を懐かしんでいた間に話が進んでいたみたいだ。




「聞いていないですね。ラガルガさんと話がまとまりましたよ。俺の提案3つを組み込む事となりましたので、書類の方をお願いします」



「三つ目・・・・?すまない二つ目までは、聞こえていたのだが。三つ目をもう一度頼む」



「え~~。あんなに白熱した議論をしていたのに、聞こえてない?ギルさん・・・もしかして、歳ですか?」



サイトが笑みを浮かべている。はたから見れば、年上に対する不敬としか思えない行動だが、長年の付き合いであるサイトとギルにとっては、一般的なコミュニケーションだ。




「うるせぇ! まだまだ、現役だ! いいから、話せ」



「口調が昔に戻っていますよ~~」




クスっと軍服女が微笑する。少し場が和んだかな?とサイトは思った。




「そんな、ブスっとしないでくださいよ~ギルさん。話しますから。三つ目は、二つ目と似たものになります。しっかりと法律で、異種族に人権を持たせること。例えば、異種族は飲食店等で座る場所が決まっているとか、‘‘外来種‘‘等の侮蔑を含んだ言葉とか、議員選挙権がないとか・・・・・色々の改善です」



ギルは「そんなの・・・議会を通るはずが・・・」と挑戦したこともないのに、弱気な発言をした。



「もちろん、即日で法律や人々の意識が変わっていく!と考えてはいないです。時間と労力をかけていかなければならない。だが、ここにいる面子が協力すれば、不可能ではないと思います。シナプス長官であるギルさん。三大貴族の一角、ブレグジット家の当主のラガルガさん。そして!ウーロンに顔が効く俺。これは、強いですよ。情報・貴族・民間が手を結べば、怖いものなしですよ」




サイトの発言にギルは「まぁ・・・それなら・・・いけるかもしれないな」と納得する。で・・・さっきの「歳が~歳が~」の仕返しに、ラガルガがいる前でとんでもない発言をする。



「この三人が組めば、いけるかもしれないな。ウーロンの現局長は、君の後輩だから、顔が効くのは間違ってはいない。だが、別に私たち二人が協力しなくても、時間をかければ目的を達成できるだろう?君のお抱えの情報機関と武力があれば、国一つ落とせるのではないか?」




「え?何の話をしているのか分からないですよ。俺はコネが効くただの喫茶店経営者ですよ?歳いっちゃうと妄想癖が肥大化しちゃうのですか?」



ギルは妄想に近い内容を話していると理解しているが、サイトならそのような独立組織を創設していてもおかしくないと、強く思っている。惚けられると証拠はないのだから言い返せないけど・・・。

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