新・ダンジョン攻略法

@isii-asuka

第1話

「フォードリオ魔法専門技術学園。第489期首席。ハルカ・サルバート」

「はい」


 僕は席を立つ。


 ついにこの時が来た。王国トップの実力を誇るフォードリオ魔法専門技術学園を卒業する。これが僕の夢だった。


 しかし。別に首席で卒業することは望んでいなかった。むしろ、普通の学生としてひっそりと卒業したかった。


 なぜこんな事になったか。それは、僕の魔法適性が異常なほどに高く、普通指導を受けないとできない事を普段からやっていたからだ。つまり、幼い頃から毎日鍛練を重ねてきたようなものだったのだ。


 才能と努力。


 その両方が知らず知らずのうちに備わっていた。


「これから頑張って市民の安全に協力しなさい」

「ありがとうございます」


 学園長が渡した卒業証書を丁寧に受け取って席に戻る。


 学園のモットーは『社会の役に立つ人材を育成する』という、ありきたりのものだ。


 まあ、ここを卒業したほとんどの人がダンジョンで働き、魔物の都市への侵略を阻止しているため、実行はしている。


「只今を持ちまして、フォーダリオ魔法専門技術学園第489代卒業生の卒業式を終了します」


 副学園長の閉会の挨拶に、卒業生が頭を下げる。


 卒業生は100人足らず。1年で約500人程の入学者がいるが、その大半は過酷すぎて途中で中退するか単位が足りず留年するか。


 僕のようなストレートで卒業する人はほんのひと握りだ。


「解散」


 学園長が告げる。

 その瞬間、おびただしい人の数が入り口から流れ込む。 


 記者。テレビのアナウンサー。スカウトに来た他の魔法学校の先生。 

 中でも過半数を占めるのが、パーティーの勧誘をしに来た冒険者達だ。


 噂には聞いていたが、おそろしい。雪崩が起こったようだ。


「ハルカ・サルバートさん。今のお気持ちはいかがでしょうか?」

「私たちはSランクのパーティーなのですが、あなたの才能を必ず発揮できる場所です。私たちのパーティーの一員になりませんか?」

「これまでどのようなコンテストで賞を取ったのでしょうか?」

「君のような天才は次の天才を育成するべきだ。僕の学校に来てくれないか?」


 あらゆる方面から人が話しかけてくる。


 うるさい!僕がやりたい事はそんな事じゃない!


「是非、冒険者として登録して———」

「すみません。僕はやりたいことがあるので。では」


 ギルドの人の勧誘を遮った僕は、人と人の間をすり抜ける。


 移動系の魔法も使えるが、学校では魔法が使えない結界が張られている。面倒臭いが、しょうがない。


「ハルカ・サルバートさん。やりたいことって———」

「冒険者以外何になろうと———」

「逃げないでくださ———」


 追っかけてくる人たちを寄せ付けることなく敷地外に出て、ある所にワープする。


 そんな遅い足で僕に追いつける訳がない。


 学校で魔法が禁止されている理由。

 それは、大半の冒険者が魔法に頼りすぎて体力・体術が衰えすぎているからだ。それを防止するため、毎日のように魔法以外の鍛練を重ねてきた僕は、アスリート並みの体力。格闘家並みの体術を身につけている。


 これは、僕が就きたい仕事にもとても役に立つ。


 スッと景色が変わった。

 商店街の端っこにある建物の前。その看板には『至急!ダンジョン大工募集中』と書いてある。


 僕は笑みを浮かべ、ドアを開ける。外見の通り、少し古めかしい。隣にある冒険者ギルドは神々しく輝いているのに…。


 中には窓口があり、女性が1人。その人は僕を見た瞬間、苦笑いした。


「あの…冒険者ギルドは隣ですよ?」

「あ、はい。分かってます。僕はダンジョン大工になりたいので」

「えっ……⁉︎」


 女性は目を見開いた。


 そんなに珍しいのだろうか?


「本当⁉︎本当ですか⁉︎わ〜、嬉しいです!だって貴方、フォードリオ魔法専門技術学園をストレート、しかも最年少首席で卒業したサルバートさんでしょう?」

「な、何で知ってるんですか」


 興奮した様子で女性が席を立つ。あまりの迫力に後ずさりしてしまう。


「知ってますよ〜。だって、毎年フォードリオの首席卒業生って新聞に載ってるんですからね」


 し…新聞?そんな事知らなかった。


 学校は寮でほとんど外に出なかったし、学校行く前は貧しすぎて買えなかったから、新聞など読んだことがない。 


 だとしたら、街のほとんどの人が僕を知ってるのか?


 個人情報ダダ漏れになってないと良いけど…特にだけは。


 眉をひそめる僕を気にすることなく、女性はしゃべり続ける。


「いや〜、心強いですね。最近、冒険者が多いのに大工が足りなくてですね。ダンジョンが壊れまくっている訳ですよ。でも安心です。政府に報告するので、たんまりと仕事回ってくると思いますよ」

「あっ、僕はパーティー専属大工になるので」

「え、そうなんですか?フリーの方が確実に稼げると思いますけど?だって、パーティーの人が何割分配してくれるか…」


 ダンジョン大工には2種類ある。


 1つは政府の要請に応じて仕事をし、その分だけお金を貰う方法。仕事を速くこなせる人はこっちの方が稼げる。


 もう1つはパーティー専属大工になり、パーティーの利益から何割か分配してもらう方法。実力者は雇って貰いやすいが、中にはブラック企業ならぬブラックパーティーもある。


 僕の場合は前者の方が稼げるけれど、あくまでダンジョン攻略の手助けをしたい僕は後者を選ぶ。


「いえ、大丈夫です。入るパーティーも決まっているので」

「そうなんですか、もったいない。まあ分かりました。では…来週の火曜日、冒険者ギルドでパーティーの月例会議があるので。そこに全パーティーのリーダーが集結するのでそこでパーティーメンバーと書類を書いて持ってきてください」

「了解です」


 1枚の紙を渡された僕は、お辞儀をして大工ギルドを出て行った。

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